「すべての人は教育を受け、幸せに生きる権利があるのです」
2014年10月、史上最年少となる17歳でノーベル平和賞を受賞した少女マララ・ユスフザイ。2012年にパキスタンで武装勢力タリバンに銃撃を受け重傷を負いながらも、奇跡的に命をとりとめ、その後も暴力に屈することなく、平和と子どもの教育の権利を広く訴え続けてきました。
この本はそのマララさん自身による初めての手記です。
若い読者に向けて書き下ろされたという本書は、小学校高学年ぐらいから一人で読むことができる易しさで文字も大きく、マララさんについてもっと知りたい!と思ったらまず手にとってほしい1冊です。
ページを開いてまず目に飛び込んでくるのはたくさんのカラー写真。はじめに写し出されているのは、幼い頃のマララさんと弟、家族の姿、マララさんが住むパキスタンのスワート渓谷の自然の美しさ、学校での様子など平和な毎日の写真…。しかし途中から、タリバンによるむち打ち刑の様子や、爆破された学校や襲撃されたスクールバス、病院でのマララさんの写真などが現れ、緊迫した状況がリアルに迫ってきます。
けれども手記を読み進めて分かるのは、マララさんが普通の女の子とそう変わらないということ。好きな色はピンクで、外見が気になり、弟に手を焼いたり、親友モニバとの関係に悩んだりしている女の子。ただ日本にいる私たちと大きく違うのは、国が女の人を軽視する考え方を持っているということ。たとえば、女の子が産まれても誰にもお祝いされないとか、村の多くの女の子が学校へ行っていない、女の人は外出する時は顔や体をかくさなければならない等々。しかしそんな中でもマララさんはいつも自信を持って堂々としています。
本書を読むと、その強さを支えているのは「マララは自由に生きるんです。鳥のようにね」と言ってマララさんを敬愛し応援する学校経営者の父さんと、いつも人と分け与えることを大切にし、マララさんの進む方向に理解を示す母さんの存在がとても大きいということがよく伝わってきます。
女性軽視はあれども平和だったスワート渓谷に暗雲が立ち込めるきっかけとなったのは、2005年に起きたマグニチュード七.六の大地震。この大地震によってパキスタン北部が大きな被害を受け、人々は大きなショックを受けます。そしてそんな心の隙間につけこむようにイスラム法施行運動の宗教指導者たちが、ラジオ放送をうまく利用して人々の心を支配し始めます。それはやがてパキスタン・タリバン運動と合流し、女性の行動と学校に対して圧力をかけていきます。学校を運営する父さんのところへもたびたび学校閉鎖の命令や脅迫状が届きますが、そこでとった父さんと母さん、そしてマララさんの強い姿勢と勇気には深い感銘を覚えずにはいられません。
TVや新聞で流れるマララさんのノーベル平和賞受賞のニュースは注目を集めていますが、そこで知ることができるのはマララさんの活動の表面的なほんの一部分だけ。10代の普通だったら楽しい少女時代に、私たちの想像をはるかに超えるすさまじい恐怖と危険の中で、平和への強い気持ちを持ち続けた1人の少女の勇気と戦いの記録を少しでも多くの人に知ってもらいたいと思います。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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