さあ、はじまりますよ。
ピエピロサーカスがほこる、奇跡の猛獣つかい、ナップナップの猛獣ショー。
しかし驚くなかれ、このショーには猛獣が一匹も登場しません。
なぜかというと……?
「ヒューパチッ ヒューパチッ ヒューパチッ」
ナップナップがならすムチの音は、サーカスのテントを飛び出していき
世界のあちらこちで、猛獣のこころをしずめるのです。
北の森では、道に迷ったハイカーたちにおそいかかろうとした熊のこころを。
東の海では、人食いザメのこころを。
西の川でも、南の草原でも、ほら。
なりひびくムチの音で、猛獣たちのこころは、やさしくおだやかなこころに大変身。
けれども、ショーはここからが本番だったのです……。
軽妙でいて、哲学的な雰囲気も漂う、いとうひろしさんの絵本。
白地に、赤・青・緑の色づかいが、時空を超えるような独特の空気感を演出しています。
このお話は、いっぷう変わっています。
猛獣つかいのムチの音は、じつは、“こころにすむ猛獣”にも効くんですって……。
サーカス団長さんのとうとうとした語り口にさそわれ、
いつのまにか読者は、不思議なムチの音の世界へ。
「ヒューパチッ ヒューパチッ ヒューパチッ」
あなたのこころに、猛獣はいませんか?
ドキッとした、そこのあなたも、わたしも。
猛獣つかいのムチの音を、しっかりこころにきざみましょう……。
ん? ええ、たしかに、ムチの購入も検討したくなっちゃいますね。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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