クリスマスなのに、わたしはおばあちゃんと二人きり。
さびしくて、しょんぼりしているわたしを見て、おばあちゃんがしずかにお話をはじめます。
「むかーし、むかしね」
月も星もない、真っ暗な夜。男の人が家々の扉をたたいて、火を少しいただけないかとお願いしてまわっていました。
「あかんぼうが生まれたんです。火をかしてください」
だけど、どの家も扉を開けてくれません。
男の人が家のない野原まで歩いていくと、遠くに小さな火が見えました。
そこに行くと、火のまわりにたくさんの羊たちが眠っていました。
男の人が火をもらおうと手を差し出した時、いじわるそうな羊飼いが目を覚まし、つえをビューンと飛ばします。ところが・・・。
男の人の不思議な力を感じた羊飼いは、火をあげたあと、後ろをつけていきます。そこで彼はとても大切なものを目にするのです。
画家の司修さんが、聖書民話から美しく優しい物語を繊細で洗練された絵で描きます。
ラーゲルレーヴとは、『ニルスのふしぎな旅』の作者である北欧の女性作家。彼女の口を借りて語り出すというそのお話には、人をおもいやる心、手をつないで生きる喜び、そして人の温かさがあふれています。
雪に囲まれて静かで色のないわたしをとりまく世界が、おばあちゃんの話を聞いているうちに、少しずつ明るく賑やかな空間に移り変わっていく様子。読み終わった後には、絵本の中のわたしと同じように、何かに見守られているような幸せな気持ちになれるのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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