るりのおばあちゃんは、川崎で沖縄料理屋さんをやっています。お客さんの悩みを聞いては「なんくるないさー。(どうにかなるさ)」と励ます、料理上手で優しいおばあちゃん。そんなおばあちゃんがるりは自慢でした。
るりにはずっと気になっていることがあります。それはおばあちゃんが自分の誕生日を祝おうとしないこと、何でも作れるおばあちゃんが、「ムーチー」という沖縄の餅菓子だけは決して作らないこと。
ある頃から、おばあちゃんは料理のことを忘れたり、おなべの火を消し忘れたりするようになっていました。病院に行ったおばあちゃんは認知症の診断をうけます。
こんなときこそ「なんくるないさー」だよ、と心をひとつにする家族。
おばあちゃんは、突然ムーチーを食べたいと言って、るりたちを驚かせます。るりは、お母さんから、おばあちゃんがムーチーと誕生日を避けていたのは、沖縄戦にまつわる悲しい記憶があったからだと聞き……。
「わすれたっていいんだよ。わすれたから、ムーチーがたべられたんだもん。わたしたちがおぼえていればいいんだもん。」
病気は、おばあちゃんが子どもの頃から抱え続けていた悲しみを和らげてくれていました。るりの、おばあちゃんに寄り添うあたたかい言葉に胸が熱くなります。
ここには、この絵本の、もうひとつのメッセージがあります。
戦争はおばあちゃんの大切な人を奪い、誕生日の喜びを奪いました。戦争のページは、表紙の青い美しい沖縄の海と対照的にモノクロで描かれています。
戦後70年、絵本を手にする子どもたちに戦争の記憶をつないでいくこと。
「わたしたちがおぼえていればいい」、このことばに作者・上條さなえさんの強い思いがこめられています。
いろいろなことを考えさせられる絵本です。読み終わって感じたことを、ご家庭や教室で話し合ってみたいですね。
(掛川晶子 絵本ナビ編集部)
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