敬虔なキリスト教信者である母と、差別にさらされながらも強い信念をもって商売を成功させた父とのあいだに生まれた、ひとりの少年、ルイス・ミショー。
ルイスはみずからの民族が白人によって虐げられ、軽んじられている現状に、常日頃怒りを抱いてきました。
14歳のとき、ほんの一袋のピーナッツを盗んだ罪で、20回もの鞭打ちという罰を受けたルイス。
「白人はアメリカにやってきて、インディアンからアメリカを盗んだ。そして今度はアフリカへ行っておれの祖先たちを盗み、おれたちを奴隷にした。おれは生きるためにした盗みで罰を受けた。白人だって同じことをしているのに」
ルイスは本を読み、自分たち黒人の歴史を学びます。
そして、黒人の権利を勝ち取るために戦った、多くの先人たちの言葉が、ルイスを勇気づけました。
奴隷制度廃止運動家であり、政治家としても知られるフレデリック・ダグラスもそのひとり。
かつて、奴隷であったころのフレデリック・ダグラスは、みずからの主人がこう言っているのを聞きます。
「学問は世界でもっともいい黒人をだめにする。黒人に読み書きを教えたら、いい奴隷にはならない」
フレデリック・ダグラスはそれを聞いて、若いころから抱いてきたとある疑問に答えを見いだします。
なぜ白人は黒人を奴隷にすることができたのか、という疑問の答えを。
不平等への怒りをくすぶらせながら成長したルイスは、とうとうひとつの結論に達します。
「黒人はなぜ成功できないのか、とたずねられていたら、白人たちの抑圧のせいだ、と答えていただろう。今、同じ質問を受けたなら、それにつけくわえて、黒人が自分たちのことを知らないからだ、と答えなければならない」
ルイスは、差別的に扱われている現状に甘んじている同じ黒人の無知さこそが、不平等を助長しているのだと考えました。
「本を読まなければならない。黒人のために、黒人が書いた、アメリカだけでなく世界中の黒人について書かれている本だ」
そしてルイスは、黒人についての本だけを揃える、黒人専門書店を開いたのです!
とはいえ、はじめの品ぞろえはわずか5冊。
そのうえ、黒人は本を読まないとまで言われていた時代。
だれも、ルイスの試みが成功するとは考えていませんでした。
ところがやがて、ルイスの書店は差別撤廃を訴える活動家の拠点となり、多くの黒人が自らのルーツを学ぶための知の宝庫へと成長を遂げていくのです。
なんとその最終的な蔵書数は2万冊にも及び、多くの文化人がルイスの店に通いつめてその知識を深めました。
本書の大きなみどころのひとつは、『差別者 対 被差別者』、という構図からのみ、人種差別の問題を描き出しているわけではないところです。
当時を生きた人々の目から見る人種差別の実態について描かれているのはもちろん、それに加えて本書の大きなテーマになっているのが、「どうやって差別と戦うか、どうすれば差別をなくせるか」について、異なる意見を持つ黒人たちの信念同士がぶつかる、内なる闘争です。
「I have a dream」のスピーチで知られるキング牧師について、ルイスは「キングの夢は、悲しいかな、夢でしかない」と切り捨てます。
そんなキング牧師はまた、彼の活動に反発した黒人女性によって刺されたことがあります。
キング牧師と同様、人種差別撤廃に貢献したかのマルコムXも、信念を異にする同じ黒人の手によって暗殺されました。
そしてルイス自身も、同じく黒人の権利を勝ち取るために戦っていた兄のライトフット・ミショーと、晩年まで意見の対立を解消することができなかったのです。
黒人の権利のために生涯をささげた、闘う本屋ルイス・ミショー。
学校では教えてくれない、差別のただ中にあって平等を勝ち取るために戦った人々のリアル!
登場人物たちがインタビューに答えるような形でそれぞれのエピソードについて描かれていくので、小説として楽しむことのできるとても読みやすい作品です。
未だ残る人種差別の問題について学ぶのに最適であることはもちろん、自らのルーツについて知ること、そして本を読むことの大切さを教えてくれる一冊。
(堀井拓馬 小説家)
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