ハンブルクに住む、一匹の知りたがりやの小ネズミ。
彼は図書館に忍び込んで、人間の書いた本を読むのが大好きだった。
ある日、図書館から戻ってみると、仲間の姿がない。
仲間はみんな、新しく開発されたネズミとり捕りに恐れをなして、ニューヨークに渡ってしまったのだ。
仲間のあとを追うためにニューヨーク行きの船に乗ろうとする小ネズミだったが、そこでは見張りの猫が目を光らせていた。
命からがら猫の手を逃れた小ネズミ、その目に飛び込んできたのは、暗闇を飛ぶコウモリの姿だった。
「そうだ! 空を飛んで行こう!」
大西洋を横断してニューヨークへ渡るため、小ネズミの飛行機作りがはじまる!
タイトルにある「リンドバーグ」とは、1927年に世界で初めて、単独かつ無着陸での大西洋横断飛行に成功したアメリカの飛行士、チャールズ・リンドバーグのことを指しています。
表紙に大きく描かれているのは、そんなチャールズ・リンドバーグの愛機「スピリット オブ セントルイス」の機首。
そして蒸気機関搭載の翼を背負った小ネズミが大きな暗がりの中心で小さくスポットライトを浴びています。表紙からも溢れる飛行機愛が匂い立つようで、内容もまったくその期待を裏切りません。
飛行機で大西洋を渡るという夢に向けて挑戦を続ける小ネズミですが、失敗をくり返し、思いもよらぬ敵の妨害にも遭って、一筋縄ではいきません。
その二転三転するストーリーは、二時間強の映画を一本観たかのような読み応え!
とはいえ決して文章が多いわけではないのがこの作品の特徴、絵だけでみせるページもたくさんあります。
それでもこの作品がこれほどのボリューム感を持っているのは、想像力を刺激する情感豊かな絵のためです。
消えた仲間の姿を探して町中を巡る小ネズミ。
船に乗りこもうとするものの、猫に追い立てられて逃げ惑う姿。
設計図を描き、材料を集め、実験を繰り返し、飛行機を作る過程。
そうした場面を描いた絵の一枚一枚が、その背景にある大冒険とそれに伴う心の動きとを、とても雄弁に物語っているのです。
読み終わってから思い返すと、絵本ではなく実際に動き回るアニメーションでそれを見たような気がしてくるほど!
子ども向けという枠組みに収めているだけではもったいない、大人にも楽しんでほしい珠玉のエンターテイメントです。
さて、賢い小ネズミの挑戦は、やがて人間にも知られることとなりました。
空飛ぶネズミの雄姿に見惚れる、ひとりの少年。
少年の心には、新たな冒険への夢が芽生えたようです。
空に憧れる、その少年の名は……?
(堀井拓馬 小説家)
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