2015年7月18日、50年ぶりに東京湾での海水浴が解禁になったというニュースを耳にしました。
それは驚きと喜びに満ち溢れた、歴史に残る事実であり、自然の力と海で生きる命のたくましさを改めて印象付ける出来事になりました。
でも、・・・なぜか?
むかしの東京湾は、今では考えられないほどとても汚れていたのです。1960年代以降、東京23区では、高度経済成長期の工業用水の流出から東京湾の水質が悪化し、たくさんのゴミのつもるヘドロの山。
「死の海」とも呼ばれていたそうです。
だれもが「東京湾に生きものはいない」と思っていたその時代に、うわさは本当かな?それなら潜って確かめようと考えた写真家の中村征夫さん。はじめて潜った東京湾。太陽の光も届かない真っ暗闇の中、くちびるがピリピリするくらい、異常な海の中で、中村さんは自分を威嚇してきた小さなカニを見つけます。そして、その時撮った写真を現像して初めてそのカニがたくさんの卵を抱えていたことに気づきハッとしたそうです。見捨ててはいけない。ここにはまだ必死につなごうとしている命がいる。
それから35年間ずっと、東京湾を撮りつづけています。
この写真絵本は、現状の東京湾の美しい姿から、過去の軌跡をたどり、実はまだ終わっていない私たちの責任について、丁寧に撮りためた貴重な写真の中から優しく、時に厳しく紐解いてくれます。
大好きな東京湾を潜るときは、外洋の海とは異なる緊張感と期待感に包まれるという中村さん。ずっと見守ってきたからこそ伝えたい、つなげたい思いがそこにあります。わたしたち人間の日々の生活が、これほど海の生き物に直結しているという事実に目を背けるわけにはいかない、人間も自然の一部であることを忘れてはいけないと考えさせられる一冊です。
(富田直美 絵本ナビ編集部)
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