ゆうたが、靴箱でりくくんの頭をはたいたとき。ここみちゃんの落とした本を蹴とばしたとき。
ジャリーン!
どこかから音が聞こえてきました。
ちょっといやなことをするたびに聞こえてくるこの音。
じつは、コインが、ゆうたの「きもち通帳」に溜まっていく音だったのです。
いじわるや自分勝手なことをすると黒コイン。
自分の気持ちどおり素直に、恥ずかしがらずにいいことをすると銀色コイン。
どちらも通帳に少しずつ溜まっていくんだそうです。
ちょっと濁ったジャリーン!と違って、銀色コインの音はチャリーン!という澄んだ音色。
でも「きもち通帳」っていったい何……?
案内ハガキが家に届き、ゆうたが「きもち銀行」に行ってみたら、番頭さんが出てきて言いました。
「この つうちょうは、人の きもちを あずかる つうちょうですねん」
そして……
「その人が ほんまに もっている きもちと ちがう【うそきもち】をあずかったときは、黒コインが たまります」
「ゆうたはんの 黒コインが、いっぱいに なりそうなんで、お知らせしましたのや」と言いました。
「きもち通帳」を見て、はじめて自分の行動と、本当の気持ちをふりかえるゆうた。
そういえば、あのとき自分はどんな気持ちだった?
困っているここみちゃんに声をかけてあげようと思わなかっただろうか?
どうして思ったとおりにしなかったんだろう?
うれしい気持ち、いやな気持ち、恥ずかしい気持ち、どうしたらいいかわからない気持ち……。
子どもはいつも自分の気持ちに正直なのかと思ったら、大間違い。そんなことはないんです。
本当の気持ちに知らんふりしたり、いくじなしの気持ちに振り回されたり。心と逆の行動をしてしまう、そのもやもやした切実な思いは、きっと誰もが同じなんですね。
「きもち」を知り、「きもち」について考えることができる幼年童話。
自信と不安が入りまじりながらも、だんだん一人で行動することが増えていく、そんな年齢の子どもたちに手渡してあげたい読み物です。
小学校低学年向けですが、高学年はもちろん、大人でも身につまされることがありそうですよ。
……あなたの「きもち通帳」には、黒コインと銀色コイン、今どちらが溜まっているでしょう?
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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