この広い学校で、今日もエレーヌは居場所がないと感じている。あの子が書いたに違いない落書きを見つけ、バスに乗れば聞きたくもない自分の悪口が耳に入ってくる。そんな時、エレーヌは大好きな本「ジェーン・エア」を読み、その世界の中に閉じこもる。ジェーン・エアは孤児でつらい子ども時代を送るのだけど、やがて、かしこくて思慮深い大人の女性になっていき…。
繊細で引っ込み思案な少女の一日はとても長い。色々な出来事が、ちくちくと心にささるのです。エレーヌの中に少女時代の頃の自分を見つける人も多いはず。決して一人が嫌いな訳じゃないけれど。そんな時、堪えがたい出来事が起こるのが学校なのです。学年全員で合宿、しかも四泊!ともだちなんて、ひとりもいないのに。「人が生きていくには、戦術というものが必要なときがある」本の中のジェーンと同じように、エレーヌは、バスの中で集中しているふりをして、本を読み続けます。でも、その合宿の中で起きた出来事をきっかけに、エレーヌの周辺に小さな変化が起こっていき、やがてエレーヌは…。
カナダ総督文学賞を受賞した本作。読み終わった後、じわじわと静かに心を沸き立たせられるこの絵本の表現方法は、グラフィック・ノベルと呼ばれる小説とコミックと絵本が融合した独特なもの。けれども、主人公エレーヌの繊細な心の動きを表現するには、この方法が最良なはず。それほどイラストが素晴らしく、魅せられるのです。本の世界と現実を行き来する感覚。答えが明快でなくとも、確実に何かのきっかけとなっているキツネとの出会いのシーン。そして、なにより美しい色に彩られたラストシーンの風景。言葉がなくとも、エレーヌの歩いていく道が伝わってくるようで、涙が出てきます。
この絵本をどう受け止めるのか。実在する小説「ジェーン・エア」の役割とは何なのか。読む子どもの、読む大人の、環境や状況で大きく変わるのかもしれません。でも、丁寧にしっかりと描かれたエレーヌの物語のどこかに、共感できる部分がきっと見つかるはず。大切におすすめしたい一冊です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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