美しくあることにこだわり、だれかをうらやんでばかりいる、ひなげしたち。
あるとき彼女らのもとに、身なりのよいちいさなカエルと、月よりも気高いバラの娘があらわれます。
カエルいわく、バラの娘はとある医者の力で美しくなったとか。
ところが、彼らの正体は悪魔の化身なのです。
美しくなりたいひなげしたちのもとへ、くだんの医者に化けた悪魔があらわれて―
ひなげしたちの持つ手鏡のデザインが、それぞれ異なっているのがとてもかわいらしいみどころ。
いっぽうで、ひなげしたちが物語を通して決してその手鏡を離さずに描かれているのが、ゆきすぎた美への執着を思わせて恐ろしくもあります。
ひなげしたちを見守るひのきの言葉によって明確に教訓が示されているので、他の宮沢賢治童話と比べて、込められたメッセージがわかりやすいのもポイント。
ひなげしやチョウによって、しっとりとした華やかな色合いで彩られていたページは、物語の終盤に暗い色合いへと沈みます。
それがひなげしたちの哀れさや、もの悲しさを引き立たせており、この物語の教訓をより切実なものとして伝えてくれています。
古い作品ということもあり、聴覚障害者を指して現代では差別的とされる表現があるので、その点ご留意ください。
満天の星空を背景にして、あるがまま生きることついて説くやさしいひのきの言葉。
そこに込められた宮沢賢治らしい普遍的な哲学は、どんな年代の人にとっても大きな力になってくれるはず。
(堀井拓馬 小説家)
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