タイトルにある「ドラテフカ」という言葉、実は主人公の名前ではありません。
これは靴屋さんのことを呼ぶときの愛称で、警察官のことを「おまわりさん」と呼ぶのと似たようなものだそうです。
物語の主人公は、貧しく若いひとりのドラテフカ。
村から村へと旅する彼は、とてもやさしい心の持ち主。
小さな虫や動物たちが困っていると、だまって見過ごせないのです。
アリやハチが巣を直すのを手伝って、カモにはパンをごちそうします。
「ごしんせつにありがとう! あなたがお困りのときは、わたしたちが助けましょう!」
あるときドラテフカは、白い塔の立つ村を訪れます。
塔には魔法をかけられたお姫さまが閉じこめられていて、魔法を解くには彼女と結婚をしなければなりません。
お姫さまを助けるため、塔へおもむくドラテフカ。
しかしそこに、塔を見張る魔法使いが現れます。
「仕事をふたつやりとげて、なぞを解いたら結婚させよう!」
ドラテフカは果たして、魔法使いがつきつける無理難題を解決することができるのでしょうか?
人への優しさがやがては自分自身を助けることになるという教訓。
登場人物それぞれが個性を発揮して困難に立ち向かっていく姿。
そうしたテーマによって紡がれる、童話らしい善良さで満ちた温かな物語です。
ポーランドのルブリンに伝わる昔話をもとにして書かれた本作。
多くの人々に愛され語り継がれてきたのにも納得で、どんな読み手にも安心して勧めることのできる一冊です。
貧しいひとりのドラテフカが最後のページで見せてくれるその華やかな姿は、まさしくハッピーエンドのお手本!
思わず笑みのこぼれる可愛らしい結末をぜひ。
(堀井拓馬 小説家)
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