お、オニがスーツを着込んでいる……なんというインパクトなのでしょう。
彼は赤オニのオニガワラ・ケン、地獄カンパニーの平社員。
今日も愛妻弁当を持ち、家族に見送られ、満員バスに揺られて地獄まで出勤です。
「オニガワラ、おまけ きょうは、なんの かかりや?」
「ちのいけじごくの みはりやねん」
「えぇなあ。らくちんやんか。」
お、驚くほど平凡な会話です。かつてないほど、地獄がお気軽に描かれています。
血の池地獄はまるでプール。
オニガワラさんは監視員のごとく注意をしながら、お昼の時間を迎えます。
美味しい愛妻弁当を食べ終わると、満腹になってコクリコクリ……
ハッ!大変です。
どんなに楽ちんだと言っても、居眠りはいけません。
気が付けば、血の池地獄に極楽からぶらさがっている“糸”につかまり、亡者たちが大量に逃げようとしているではありませんか!! この光景、どこかでみたような……?
さてさて、大変なミスをしたオニガワラさんはどうなったのでしょう。
恐ろしい姿をして、コワイものなど何もなさそうなオニたちの日常も、意外に大変なのかもしれません。読み終われば、哀愁の漂ったその背中に同情と親しみの心が生まれてくるのです。
このヘンテコリンなお話を生み出したのは富安陽子さん。なんでも2014年のお正月にほぼこのストーリーのままの初夢を見たのだとか!?やっぱり普通じゃありません。そして、まるで見てきたかのように、画面隅々まで地獄カンパニーの様子を描き出す大島妙子さんの絵も素晴らしいのです。オニガワラ家で飼っているペットや町にあるお店など、サイドストーリーも気になって仕方がなくなるのです。是非、オニのサラリーマンの日常の続きを読みたいものです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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