つぶらな目をしていて、穏やかで、体が大きく、賢い。
ゾウに対して持つイメージで、その「強さ」を先にあげる方は少ないのではないでしょうか。
この作品における数々の写真には、なんら暴力的な描写は用いずに、(そんな)ゾウの圧倒的な存在感と比類のないその強さが写し出されています。
ところどころで、細く背の高い木々が葉を広げる大草原。分厚い雲の塊が浮かぶ、真っ青な空を背に、一匹のゾウが地平に向かって去っていく、その一枚。
まだ夜も明けきらない早朝。大きく空を占める月の下で黒々と浮かび上がる、群れをなすゾウたちのシルエットをとらえた一枚。
子どもを襲おうと群れに近づいたライオンを追い払い、怒り冷めやらずになお、逃げ惑うライオンの後を追うゾウを正面から写した一枚。
動物園で実際のゾウを目の前に見るときにも、その迫力には驚かされるものです。
しかし、十数頭で群れをなし、目的を持って広大な草原を移動してゆくその姿からは、動物園で見るのとは違うリアルなスケール感が伝わってきます。
もちろんこの作品は、ゾウの迫力だけを伝えるものではありません。
「ゾウのこども」のタイトル通り、ゾウの出産からはじまる本作は、生まれたばかりの赤ちゃんとその群れによる、広大なサバンナの旅を追う形で展開します。
その中で赤ちゃんが見せる、かわいらしい成長の一場面を収めた写真もみどころ。
産まれたばかりの赤ちゃんゾウは、まるで人間の赤ちゃんが指を吸うようにして自分の鼻を吸います。
また、ゾウは水を飲むときに鼻で水を吸い上げてそれを口に流し込むのですが、ゾウの赤ちゃんはまだ自分の鼻をうまく扱えず、器用に鼻を使って水を飲む大人たちの間で一匹、川面に直接口をつけて飲んでしまったりも。
水場を求めて祖先たちが辿ったのと同じ道を辿り、旅をするゾウたち。
嵐を予感させるように空は暗く曇り、その間を切って日が差し込むなかを、舞い上がるサバンナの砂埃が、霧のようにゾウたちの姿をおぼろげにする―
ラストを飾る巨大なスケールの一枚に、きっと胸を打たれるはず。
(堀井拓馬 小説家)
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