一見すればただただずっと、一本の線をたどる話。
けれど、この本の存在の意味を知ると、見方は断然違ってきます。
『いっぽんのせんとマヌエル』は、自閉症スペクトラム障害をもつマヌエルをきっかけに生まれました。
主人公の名前が同じなのも、そのためです。
一本の青い線を読み手がたどっていくと、線から太陽がのぼり、またたどると、今度は線にドアがついていて学校に入っていけます。
線にとまる鳥、線をたどって帰れる家……。
一冊の本を「線」が貫いているのです。
マヌエル本人にとって「線」は、この世界を理解するのに必要な足がかりだそうです。
「線」の他にも数や動物など、自閉症スペクトラムの子が興味を示す対象には個性があります。
作者マリア・ホセ・フェラーダさんの言葉を借りれば、彼らには「ほかの子どもたちよりも世界があいまいにみえてい」ます。
だから、信頼を寄せる「線」をたどることはマヌエルの心を安定させるし、「線」のそばのものに触れれば触れるほど彼の知る範囲は広がるのです。
「線」をカギに踏み出そうとするすべての人に、この絵本は開かれていると言えます。
マヌエルや多くの自閉症スペクトラム障害を抱える子どもにとって、この絵本は貴重な世界のヒントとなるでしょう。
しかし同時に、自閉症スペクトラム障害にいまだ出会わない多くの人にとっても、人間の多様性について知らせてくれる有効なツールなのだと思わずにはいられません。
(てらしまちはる ライター/こどもアプリ研究家)
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