空想好きの女の子ピッパは、子守りのアルバイトで訪れるこの街角で、ひそかな楽しみをいだいていました。
通りをゆきかう人々を観察しては、あれこれと彼らに物語をあてがうのです。
いつか、このいかにも何か物語の秘められている街角を散策しよう。
そう考えながらも、かわりばえのない日常を過ごしていたピッパ。
しかしここには、そんなピッパでさえ想像もおよばないような奇妙な物語がひそんでいたのです。
ピッパが見つけた、どんな素敵な物語にも似つかわしくない〈つまらなすぎる女の人〉。なんとか彼女に物語をあてがおうと頭を悩ませるうちに、想像が止まらなくなってしまって!?──「彼女の秘密」
高校生のころから“おしどり屋”にかよい、ゲームコーナーでクマの人形にボールを当てつづける〈坊や〉。大人になっても変わらずボール当てゲームのために店へ通う彼を不思議に思った店主夫婦は、その裏に隠された真の意図を探ろうと推理をはたらかせますが──「坊やとおしどり屋」
占い師のおばあさんに寄せられた、かわいい甥っ子からの恋愛相談。なぜだか、恋人の顔を正面以外から見ようとしても、決してそれをすることができないのだそう。奇妙な悩みの意外な原因とは?──「お月さん」
とある国の、とある街角。
そこに息づき、ゆきかう人々の、すこし不思議な物語を描いた八編を収録。
読み終わってしまうのが「もったいない」と思える本との出会いは、なんて幸福なんでしょう!
童話的で、どこまでもロマンチックな筆致。
それでいて、くすりとさせてくれる皮肉っぽさがあり、これが無国籍な作品世界と絶妙にマッチしていて、読み心地がバツグンに気持ちいいのです。
児童文学らしいシンプルな言葉の組み合わせによって、これほど味わい深い情景が綴られるのかと、うっとりしてしまうほど。
作者・高楼方子さんの紡ぐ八編の物語は、一貫して表すことのできるジャンルさえも定かではありません。
どれもが不思議であるという以外に──恋やあこがれのときめきがあり、ミステリ小説のような心惹かれる謎があり、忍び寄る夜闇にうなじをなでられるようなホラーテイストさえあるのです。
物語を読むことの、本質的なよろこびさえ味わわせてくれる珠玉の短編集です!
きっと、心に残る一冊になるはず──。
(堀井拓馬 小説家)
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