主人公の少年は、ある事情でこの町に引っ越してきたばかり。
町は石炭の匂いと羊のスープの匂いがして、金属のやぐらが音を立てています。
見るものも匂いも、何もかもが自分の住んでいたイタリアのローマとは違う。
少年は、この町で「よそ者」だと思い知らされる毎日を過ごしていました。
そんな中、唯一心を開ける存在が、町に住む老人エバンズさんと、エバンズさんの飼っていたハトたちでした。
少年は、レース用に訓練された一羽のハトに名前をつけて、エバンズさんからそのハトをもらいます。
「レ・デル・チエーロ!イタリア語で空の王さまっていう意味だよ!」
エバンズさんに習ってレース用にハトを訓練する少年。
そして、ついに少年のハトは、レースに出ることに・・・。
出だしから、絵本とは思えないほど、暗く閉塞感に満ちた風景が広がります。
羊のスープに石炭の匂い。きっと町に漂うそのどちらも、少年にとって強烈な匂いに違いありません。
少年のふるさとへの思いと、でも帰れない何らかの事情があることも、痛いほど伝わってきます。
様々な事情から、見知らぬ土地で暮らさなくてはいけなくなった子どもたちは世界中に沢山いるはず。
現実に立ち向かい、明日をひたむきに切り開こうとする、その全て子どもたちに捧げる最高のエールとなる絵本です。
(福田亜紀子 元絵本編集者)
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