室町時代の短編小説を集めた『御伽草子』の中の一編。 「ものくさ」とは、無精なことをいい、国中で一番のなまけものが、このものくさ太郎だ。信濃国あたらしの卿(現在の長野県松本市)に暮らす男の話である。何もせずにただ寝ころんでばかりいるその男が、ある時、京へ上がることになり、初めて仕事をもって働きだす。そして、国へ帰る前に是非とも妻を探したいと思い、清水寺(京都市東山区)へ行く。そこでひとりの女と会い、ものくさ太郎の歌の才が見出される。出世し、妻を連れて信濃国に戻ったものぐさ太郎は、幸せに暮らしたという。下克上(下位の者が上位の者の地位や権力をおかすこと)の風潮が、庶民を主人公とする物語を作ったといえよう。
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