「ワタナベさん やってるー?」
ガラガラっと戸を開ければ、待ちかまえているのはワタナベさん。ワタナベさんは、おなべひとつでどんな料理でも美味しくつくる名人です。
次々に材料が入っていき、ボッと火がついてワタナベさんの顔が真っ赤になった頃、いいにおいがしてきます。ふたがパッと開けば、今日は得意なおでんの出来上がり。他にも、ちゃんこなべにロールキャベツ、カレーに炊き込みごはん。お客さんのために次々と完成させていくワタナベさん、それはそれは見事です。
ところが、最後のお客さんの注文が「ナポリタン3人前」。いくらワタナベさんでも、おなべひとつでナポリタンなんて作れるのでしょうか!?困ってしまったワタナベさんですが、悩んだ末に……「ひらめいた!!」
どこにでもある、でもなんだか懐かしくてほっとする大きなお鍋。それがこの絵本の主人公ワタナベさん。親しみやすくて、とっても便利。家族のために毎日たくさんの料理を仕込んでいる方にとっては、このお鍋がどれだけ頼もしいのか、すぐにピンとくるのでしょうね。でも、ワタナベさんの魅力はそれだけではありません。優しいのです。そして器がとても大きいのです。困っている人がいたら、細かい事は気にしないで、とりあえず「やってみて」くれるのです。
井の頭自然文化園でポスターや展示デザインを担当していたり、図鑑等で動物のイラストも手掛けられている作者の北村直子さんによる初めての自作絵本は、読み終えた後もあたたかい気持ちにさせてくれるお話です。ワタナベさんの表情も、何だか力が抜けていてとても可愛い。でも、そんなキュートなワタナベさんは教えてくれます。「やって やれないことはない」ってね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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