森の奥深くにある、一軒の家。
むかしは人が住んでいたけれど、今は誰もいない家。
少し歪んで倒れそうな家は、むかしは青いペンキが塗られていたけれど今ははがれていて……、草木に覆われ、窓のガラスはなくなっています。
ふたりの子どもが、丘をのぼり、家に近づきます。
中途半端にしまっている玄関のドアは、「ちゃんとあいてはいませんが、ちょっとあいています」「しまってはいますが、しっかりしまってはいません」という具合。
ガラスの割れた窓は、「のぼっておいでとよんでいます」。
家にあがりこんだふたりの子どもは考えます。
ごはんのときに豆をたべたのはだれ?
暖炉のそばにいたのは?
ぼやけた写真はいったいだれの?
だれも住まなくなった……かつてはだれかが住んでいたふるい家。
朽ちかけた家にふさわしい、枯れた色彩の絵から一転、想像の世界の住人たちは色あざやかに描かれます。
海にいきたい男の人だった? 庭で絵を描く女の人だった?
カウボーイ? 女王さま? それともネコ?
まるで短編映画のような、詩情あふれる絵本。
作家であり詩人のジュリー・フォリアーノの文に、コールデコット賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作家のレイン・スミスが絵を描いています。
緑にあふれた森の奥ではなく、赤や黄の秋深い色に染められた草木の茂る森の奥に、埋もれるようにたたずむ家……。
いつだって、想像力はどこまでも広がっていきます。
想いをめぐらすひとときに、ぜひこの絵本をどうぞ。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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