ネズミにしろネコにしろ、この世には動物たちがみずから書き記し、あるいはヒトに語ったとされる物語がさまざまあります。
彼ら自身で作りあげた世界や、彼らの目から見たニンゲンのことを知ることができるのは、それだけで物語にあふれた胸踊る体験ですよね。
もちろん、そこに『冒険』があればなおのこと――
これは、公園で出会った一匹のリスが著者に語った、ちいさなリスの世界の、おおきな冒険の物語です。
主人公は、いつも落ち着いているリスの男の子、〈ジェド〉
故郷の森でジェドがいつものようにいっしょうけんめいドングリを埋めていると、とつぜん、するどいカギ爪につかまれて、空高くまでとんでいってしまいます。
ジェドはなんと、タカにさらわれてしまったのです!
ジェドの友人でしっかり者の女の子〈ツツ〉と、ドングリの帽子をかぶったオシャレでハンサムな〈チャイ〉は、ジェドの無事を信じ、そのあとを追って旅に出ます。
森に点在する、〈生きていないもの〉たちを道しるべにして――
一方、リスの武道〈ハイ・チリー〉をくり出して命からがらタカから逃れたジェド。
ところがそこは、故郷から遠く離れたどことも知れない森のどまんなか。
ジェドはそこで、奇妙な言葉で話す、自分とは毛色のちがうリスたちに出くわしてしまいます。
はたして、ジェド、ツツ、チャイの3匹はぶじに再会することができるのでしょうか?
手に汗握る冒険もさることながら、知られざるリスたちの世界の文化や言葉が、この作品のみどころです!
たとえば、リスたちが〈生きていないもの〉と呼ぶそれは、自然に生まれたものではないヒトの手による建造物のこと。
鉄塔のことは〈こおったクモの巣〉
教会のことは「ときどき歌うけれど決してひらかない〈大きなくちばし〉」
特に、〈こおったクモの巣〉から伸びる電線のことを〈ブンブン通り〉と呼んでいるのには笑ってしまいました。
なるほどたしかに、リスたちにとってあれは〈通り〉にちがいありません。
またこの作品の特徴は、動物対人間という対立の物語にはなっていないところです。
〈生きていないもの〉はもう何世代も前のリスたちの時代から存在する、リスの世界の一部として描かれており、またそれを作った人間も、決して悪意ある支配者としては描かれていません。
森があり、そこを切り拓いて作られた人工物があり、人間が登場し……しかし本作は強いメッセージの込められた訓話にはならず、ただ純粋にワクワク読むことのできる冒険物語としてたのしませてくれるので、誰にでもオススメできる作品になっています。
さあ、著者といっしょにリスの話に耳を傾け、ちいさな世界をのぞき見てみませんか?
(堀井拓馬 小説家)
続きを読む