一頭のくまが、森で冬眠し……。
春になって目が覚めたとき、あたりが一変していることに気づきました。
「森はどこだ? なにがおこったんだ?
ぼくは、いったい、どこにいるんだ?」
くまが驚くのも無理はありません。
眠っている間に、森の木は切り倒され、たくさんの人間がやってきて、大きな工場を建ててしまっていたのですから。
いつの間にか、工場の地下深くにいたくまは、地面の上に出るなり、男の人にどなられます。
「おい、そこのおまえ、仕事はどうした!」
ぼくはくまですから、と答えるくまですが、“主任”を名乗る男は大笑い。まったく信じません。
「おまえは、くまじゃなく人間だ。それも、毛皮のコートを着こんだ、ひげもそらない、とんちんかんだ。そんなことで仕事をさぼろうとするやつは……」
と、くまは叱られ、えらい人のところに連れていかれます。
部長の次は常務、常務の次は専務……、そして社長まで?!
いったい、もののわかったえらい人間というのは、いないのでしょうか。
「いや、ほんとにくまですから」「いたってふつうのくまなんです」「生まれたときから、ずっとくまなんです」
いくら言っても、仕事をさぼる理由としか受け止めてもらえません。
だんだんくまは、自分のほうがまちがっているような気がしてきます……!?
アニメーション制作や、映画の脚本家、映画監督・プロデューサーとして活躍したフランク・タシュリンの作品。
ユーモラスで、生き生きした漫画のようなタッチが魅力的。小学生にぴったりの絵童話です。
タシュリンが子ども向けに書いた作品は、『オポッサムはないてません』(大日本図書)と本作のみ。
本国アメリカでの出版(後にアニメ化も)から、何十年もの時を経て、このたび2冊同時に邦訳出版されました。
本作を読むと、「くまを人間にまちがえるなんて、そんなこと、ないでしょう。へんなの!」と大笑いしたくなりますが、もしかしたらお子さんの年齢によっては、何となく引っかかるような、モヤモヤした気持ちを感じる子もいるかもしれません。
繰り返される会話のとんちんかんさ、勢いのある楽しさと同時に、考えさせられるおもしろさがあり、子どもの心に残る作品です。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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