「ぼくの ハンカチも、いっしょに あらってほしいの」
はじめてやってきたコインランドリーで、おばあさんは1ぴきの子どものあらいぐまと出会い、こんなお願いをされます。悲しいことがあるたびにハンカチで涙をふいていたら「かなシミ」というシミがとれなくなったというのです。おばあさんはハンカチを洗ってあげる間、あらいぐまの話にゆっくり耳を傾けます。
あらいぐまの「かなシミ」のひとつは、仲良しのきつねとケンカをしてしまったことでした。ケンカの原因はちょっとしたすれ違いです。きっと、読む子どもたちも、似たような出来事を思い出してドキっとする場面ではないでしょうか。
「それは もう……、きつねに あうしかないねえ」
「いままで、まい日あそんでいたなら、きつねも いまごろ、さみしいだろうね。」
なるほど、おばあさんがあらいぐまにかける言葉のひと言ひと言に、すっかり大人になった私でさえも、じっくりと聞き入ってしまいました。
お話の中で強く印象に残るのは、「かなシミ」という言葉。そうか、かなしみの気持ちは、心にぽつっとできた「シミ」のようなものなのかもしれないな、とストンと納得したのです。もし、心に「シミ」ができて自分では消すことができなくなってしまったら……。そんな時にはあらいぐまのように、勇気を出してだれかに打ち明けてみたら、パッと気持ちが晴れるかもしれません。だれかのひと言が、固まっていた考えを魔法のように変えてくれることが、きっとあるのです。
お話を通して、あらいぐまの表情や仕草がとっても愛らしいのも大きな魅力です。 個人的なお気に入りは、 「おばあさん、あのね……」と言う時に必ずおばあさんにちょこっと手を伸ばす場面! そんな愛らしいあらいぐまの様子を中心にすべてのページに絵がついているので、絵本から読み物への移行期にも無理なく読めるでしょう。小学1、2年生の子どもたちにおすすめのお話です。
小さなモノたちや動物たちの気持ちを温かく、時にユーモラスにすくい上げる筆致が魅力的な大久保雨咲さんによる、おばあさんとあらいぐまの心の交流が丁寧に描かれた優しい絵童話。一見、あらいぐまだけが助けられたようで、実はおばあさんもあらいぐまから受け取ったものがあるのでは? というあたりにも思いを巡らせてみると、誰かと出会うことの喜びがより温かく迫ってくるようです。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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