野生はどこにでも、宿る。
わたしの、そして、あなたの中にも。
世界の文豪、その名作短編がスラスラ読める「世界ショートセレクション」シリーズ14作目は、アーネスト・トンプソン・シートンの物語!
『シートン動物記』で知られるシートンは、つぶさに自然を観察することで、動物の生態や進化の秘密にせまり、その生涯で多くの論文や物語、絵画をのこしました。
動物を主人公にした物語、動植物にまつわる興味深い気づきや言い伝え、そして、シートン自身の体験からつむがれる、動物と人間との戦いの記録など——
本書に収録されている著作のジャンルはさまざま!
学者としても、作家としても活躍したシートンの魅力を、幅広く味わうことのできるラインナップです。
たったいま卵から孵ったばかりのコガモと、その母親を待ち受ける過酷な試練。
無防備な彼らには、あまりにも敵が多かった。
キツネ、ハヤブサ、ヘビ、そして人間。
干上がってしまった池から、あらたな池までの長い旅路を、コガモたちは無事に終えることができるのか?
——「母さんコガモと陸路の旅」
多くの犬のしっぽの先が白いのはなぜ?
身を落ち着けるときに、犬がその場でくるくる回る理由は?
そして、シートンが思い描く原始人類の生活と、現代人の行動に刻まれた彼らの習慣とは?
現代という時代においても変わらない、様々な動物に宿る野生の証を解き明かす!
——「飼われた動物の野生」
夜な夜な牧場の動物を狩り、それでいて決して人間に捕まることも、駆除されることもない狼。
クルンパの地に住む狼たちの王、その名は『ロボ』。
そのあまりの暴虐に多額の懸賞金がかけられるも、ロボは「ル・ガルー(狼男)」と呼ばれるほど賢く、凄腕のハンターたちをも翻弄していた。
そして、動物に関する知識を頼られロボの駆除を依頼されたシートンが、クルンパの地を踏む。
シートン VS 狼王ロボ!
胸を撃ち抜かれる、あまりにも意外なその結末とは?
——「ロボ クルンパのオオカミ王」
他2編収録。
「これでもか!」と、みどころだらけの本書なのですが……
自然に対する圧倒的な観察力で裏打ちされた、「動物視点」のリアリティーが特にみどころ!土の匂いを吸えるほど低く、あるいは空にふれるほど高く、より自然に近い視線から眺めた、人間が見るのとは違う高さからの自然。
そして、そんな世界を生きる動物たちの、心のうち。
そうした描写の現実感は、なまなましく思えるほど!
たとえば、冒頭の一編である「母さんコガモと陸路の旅」をみても——
母コガモが命をかけて守る卵、そのひとつひとつが命の温かみを宿してそこにあること——
そして、それに対する愛情と不安が、まるで彼女から直接話を聞いているかのように、はっきりと感じ取れるのです。
動物のふしぎを知ることができるエッセイとしても、あるいは、自然と対峙するシートンの活躍を描いた物語としても、ばつぐんにワクワクさせてくれるおすすめの一冊です!
(堀井拓馬 小説家)
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野生動物の観察、記録から、人と動物の間を世に伝えたナチュラリスト・シートン。野生はどこでも育つと感じられる「森の物語」や野生動物の芯の強さを描いた「ロボ クルンパのオオカミ王」など5編を厳選し新訳でお届けする。
編集者コメント
開拓地での野生動物の観察、日記での記録、そして執筆と、生身をもって知り得た「野生」を自らのものとし、人々に自然と動物と人間との実情、理想を伝えつづけたナチュラリスト・シートン。シートンは、作品を通して、人間のなかには自然に呼応する心があり、どこにも野生は息づいている、と語っています。人間もまた自然の一部、野生動物であり、共存するいずれにも優位に立っているなどということはない、と改めて気づかされる。
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