ノロマだから、顔が怖いから、体が大きいから……
だからあの子は、かわいそう?
でも、本人はそんなこと、ちっとも気にしていないかも。
それどころか、そんな自分のことが大好きだったりして!
カラスってつまらなそう。黒くてみんな同じ色。
いやいや、カメこそかわいそう。地べたをノロノロ這いつくばって。
「そんなの、なんでもない!」
夜になったら、みんなまっ黒。夜にはカラスの黒が似合うの!
それに、カメはあえてノロマなわけ。生活にゆとりがあって、急ぐ必要がないんだもの。
人間の女の子に、カラス、カメ、モグラ、象、トラ──
この絵本の動物たちは、自分のことが大好き!
たとえ他の誰かから「かわいそう」だと思われていたって──
著者は、『ぼくのトイレ』や「しごとば」シリーズで知られる人気絵本作家、鈴木のりたけさん。
そしてこの『なんでもない』は2016年に出版された『とんでもない』の姉妹編でもあります。
前作、『とんでもない』では、人からうらやましく思われるようなことも、本人にしてみれば苦労もあるということをユーモラスに描いていますが、本作はそれと正反対!
登場する動物たちは、みんながみんな、誰かのことを「かわいそう」だと思っています。
でも、「かわいそう」なはずの本人は、いたってへっちゃら!
それどころか、かわいそうだと思われているところを、自分では誇りにさえ思っているのです。
『とんでもない』は、本人にしかわからない思わぬ苦労を語る動物たちの、切なく物悲しい表情がおかしい作品でした。
対して『なんでもない』は、自分がいかに恵まれているか力説する動物たちの、自信に満ちあふれた表情がみどころ!
なんだか、つられて自信がわいてくるような……。
でも実は「なんでもない」ことが、「なんでもなくない」ときもあるんです。
カラスだって、黒以外に目移りすることはあるし、モグラにとって土のなかがどこでも、居心地いいわけじゃない。
そんな、それぞれの「実はなんでもなくないとき」のことが描かれているのが、裏表紙。
本編を読んだあとに見てみると、思わずクスッとさせられる仕掛けになっています。
みんなホントは、ちょっと強がってたんじゃないのー??
「人にあれこれいわれても気にしない。自分のことは、自分がいちばんよくわかってるんだもん!」
ユーモラスな中に、力強いメッセージの込められた一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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