漁に出る船を見送る、ひとりの少年。
彼の名前はダニエル。
「ねずみくーん、大きくなったら、きみもつれていくよー」
船に乗ったパパが、そういって沖に向かいます。
ねずみくん、なんて呼ばれるのは嫌い。ぼくは、もう大きいのに!
そんなある日、ダニエルに不思議な力が宿ります。
はじめはほんのちょっとした違和感。
ちっちゃなクラッカーのカケラが、今、いっしゅん浮いた?
ひそかに練習を重ねて、次第に重く、大きなものを浮かすことができるようになるダニエル。
ところが、浮くとはいっても、その高さは、ほんのちょっぴり……だから力が役に立つのは、テーブルを拭くのに、ものをどかさなくて済むことくらい。
そのうえ、あくまでも浮かせることができるだけで、動かすことはできないのです。
いったいこの力はなんなのだろうと疑問に思っていたある日──海辺で事件は起こります。
不思議な力を様々な方法で試し、夢中で訓練するダニエルの様子を見ていると、こっちまでワクワク!
日常の中にとつぜん降ってわいたファンタジーに胸躍らせる心持ちが、ひしひしと伝わってきます。
力の使い道が、ちょっとしたイタズラとお手伝いのため、というのが、なんとも子どもらしくてかわいらしいところ。
でも、人にはない力を得た少年は、それをただ、かわいいことにばかり使うわけではありません。
認められたいという、大きな願い。
少年に与えられた、ちいさな力。
写実的ながらも、幻想的で温かなイラストで描き出す、日常に息づく「あるかもしれない」ファンタジーと、少年の成長物語!
(堀井拓馬 小説家)
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