春の日に、うちにやってきた元野良の猫。
警戒心が強くて、臆病で。
そんな猫が、ゆっくりと時間をかけて、「うちの子」になるまでのおはなしが描かれています。
我が家にも猫がいますが、彼は野良の経験はありません。
それでも、やってきた初日はベッドの下に隠れたまま全く出て来ようとせず、「これは長期戦になるぞ」と覚悟しました。
しかし次の日、ごはんを差し出すと何のためらいもなくのそのそと出てきて、ガツガツと食べ始めたのです。
このとき私は「ああ、この子は食べ物に弱いんだな」と思った覚えがあります。そして現在も食いしん坊です。
人間と同じで、猫も1匹1匹性格が違います。
我が家の猫のような子もいれば、この絵本の猫のように、なかなか心を許してくれない子もいます。
「ねこ、ねこ」
敵意むき出しの猫に、優しく呼びかけます。
まるで子どもに言うように。
それでも元野良の猫は、簡単には心を許してくれません。
過酷な環境で生きてきた経験があるなら、なおさらなのでしょう。
人と猫は言葉でコミュニケーションがとれないので、行動から想像するしかありません。
猫の行動一つ一つ、どんな意味が隠されているのか考えます。
私に飛びかかってきたのは、なぜだろう。
もしかしたら私のことが嫌いなのかもしれない。
もしかしたら外で暮らしたいのかもしれない。
でも、もしかしたらびっくりしただけなのかもしれない。
そんなときに人ができることは、焦らずゆっくりと猫に寄り添ってあげることなのかもしれません。
このおはなしは、作者である高橋和枝さんがご自身の体験をもとに書かれたそうです。
人と猫とが徐々に信頼関係を気づいていく様は、猫を飼っている人なら共感できる点も多いと思います。
猫を飼っている人、これから猫を飼いたい人だけでなく、猫を飼う予定がない人にも読んでもらいたい、心がほっと温かくなる絵本です。
(近野明日花 絵本ナビライター)
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