本日はご乗車まことにありがとうございます。こちらは、ムシのムシによるムシのための鉄道、「ムシ鉄」でございます。ご案内は、ムシ鉄博士のカナブン、こてつくん。きょうはたくさんのムシ鉄にのって、遠くの駅までお出かけです。自動改札に「musimo」をタッチして、 のりつぎ旅にいざ、出発!
ムシ鉄に乗るにはマナーも大事。ハネはかならずおたたみください。大きな声で鳴かないでください。フンを転がすなんて、もってのほか!
まずはアリ線で地下をゆき、乗り継ぎ駅はニンジン畑。水中も走れるタガメ線に、木登りスイスイ、オケラ線。そしてオケラ線が乗り入れるのは、Kのマークのあのムシ鉄。かわいらしいイラストのムシたちと、その世界を走る鉄道を描いた、ユニークな一冊です。
「もじの ちいさいかしょが、
ところどころ ございます。
およみとばしのないように
ごちゅういください」
との注意書きにしたがって、目を凝らしながら読み進めていくと……?
お客さんが読んでるスポーツ新聞に、いろんな車内広告。個性ゆたかな乗客たちに、ページの隅で起こるトラブル。そして、駅に刻まれたムシ鉄のキャッチコピーは「そうだ どっか、行こう。」そうした世界観の広がりを感じさせる細かな描き込みが、あちらこちらに発見できます。
スポーツ新聞の一面を飾っていた野球選手(?)のムシローはやっぱり人気者で、ターミナル駅を行き交う乗客の中には彼のTシャツを着たムシが! いろんなお店が軒をつらねる広大なエキチカには、車内広告にもあったあのお店が! にぎやなかムシたちの世界には読みなおすたびにあたらしい発見があって、絵探し絵本としてもたのしめます。
さて、駅ものりつぎもたのしいけれど、目的地があるのが鉄道旅。こてつがはるばる目指していたのは、かなブンじいじと、ばあばのところ! でも、せっかくふたりに会えたのに、こてつはどこか上の空。どうやら帰りに乗る予定の「とある特別なムシ鉄」に、思いをはせているよう。最後までたっぷりムシ鉄が楽しめます!
(堀井拓馬 小説家)
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