「この森でもなければ その森でもない あの森でもなければ どの森でもない
こそあどの森 こそあどの森」
謎に包まれた不思議な森。そこには5つのユニークな形をした家があり、個性的な住人たちが暮らしています。
その住人の1人で物語の主人公的存在となるのが恥ずかしがり屋の少年スキッパー。ある日、スキッパーのところに一通の手紙が届いたところから最初の物語が展開していきます。手紙の差出人は、一緒に暮らしているけれど今は旅行中の博物学者バーバさんです。ダンボール箱の中には、手紙と一緒にポアポアという実(バーバさんが旅先のナンデモ島で出会った)が20個入っていました。
しかし、あいにくポアポアの実の料理法が書いてある手紙の箇所が雪で濡れてしまっていて、ところどころしか読めません。気になるのは、「 さんにたずねるとわかるでしょう」という部分。いったい誰にたずねれば料理法が分かるのでしょう?
そこでスキッパーは、次の日から、勇気を出して「こそあどの森」の住人1人1人を順番におとずれ、料理法をたずねて周ります。たずねられた人たちはそれぞれに知恵をしぼり、ゆでたり、炒ったり、焼いたり、たたいたり、呪文?!を唱えたり。しかしポアポアはびくともしません。
やしの実よりも小さくて、りんごよりは大きい、色はうす茶色で固くすべすべしているポアポアの実。いったいどうやって食べるのか、そのナゾを解き明かす過程もワクワクするのですが、同時に少年スキッパーの心の微妙な変化も気になり、心が掴まれます。
恥ずかしがりやで人と接することを面倒だと考えていたスキッパーの生活の中に、ポアポアの実をきっかけとして少しずつ他の住人たちの存在や過ごした時間の記憶が入り込んでいくのです。1人だけのしんとした生活や空想の世界に、他の誰かが入ってくるのは、なんだかウキウキするような嬉しい気持ちです。けれどもその一方で、同じ空間にいながらも、1人1人の頭の中ではそれぞれの世界を持っている、ということも大切に描かれていて、1人の自分とみんなの中にいる自分など、自分の内面世界の持ち方について意識するきっかけともなりそうなお話です。
作品の中の楽しいイラストも作者の岡田淳さんによるもの。
主人公スキッパーとバーバさんが住むウニマルや、ポットさんとトマトさん夫婦が住む湯わかしの家、作家のトワイエさんが住んでいる木の上の屋根裏部屋…などユニークな家の断面図は、しばらく眺めていたくなるほどの楽しさと工夫がいっぱいです。それぞれがどんな生活をしているのか、大きく空想が広がっていきますね。
1冊読んだらどんどん次のお話が読みたくなってしまう魅力たっぷりの「こそあどの森」の世界。読み始めは10歳ぐらいから、大人の方におすすめしたいシリーズです。
そのはじまりのお話となる1巻をどうぞたっぷりとお楽しみください。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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