毎日の生活の中で、「どうすればいい?」と悩み、立ち止まってしまう瞬間があります。そんなとき、先の見えない暗い道の行く手を照らすあかりが見えたら、どんなにかほっとすることでしょう。この本は、まさにそんなあかりのような、希望と温かさに満ちた物語です。
ハニバルは、9歳のとき両親を事故で失い、アイダホ州ボイジに住む、父方の祖父にひきとられました。祖父のポップは厳しくも優しく、ハニバルの気持ちをしっかり受け止めてくれるおじいちゃんです。お話が上手で、さびしい夜にも、おもしろおかしい物語で笑わせてくれます。
ポップは銃を持っていますが、決して遊びの狩りはしないと決めています。でも狩りの楽しさを友だちから聞いたハニバルは、好奇心をおさえきれず、ある日、ナゲキバトを撃ちおとしてしまいます。しかし、得意になったのもつかのま、ハニバルは思いがけない決断をせまられます……。
「いい人でありたい」と、みんな思います。でも、常にそうであることは難しいし、見方を変えれば良いことが悪いことになることも、また、その逆もあります。それに、自分ではどうしようもないことに巻き込まれてしまうこともたくさんあります。自分が撃ち落とした鳥に小さなひながいることに気づいた瞬間。父と母が亡くなった大きな悲しみにどう立ち向かうのか途方にくれるとき。初めてついた嘘。悪に手をそめていく親友を見守る悩み……。
どんなに難しい問題でも、ポップは受け止め、ハニバルを包んでくれます。からっぽでひからびた少年の心を、ゆっくりと愛と物語で満たし、前に進むよう導いていきます。決してその場しのぎや、口先だけでない、深い考察と愛に裏打ちされたポップの言葉は、物語を読む私たちの心に、深くしみとおっていきます。やがて、ポップの過去に隠された秘密が明かされるとき、衝撃とともに腑に落ちるのです。人間の強さと弱さを骨身にしみて知っている人だからこそ、つむげた言葉だったんだと。
誰も自分の味方がいないと思ったとき、大きな失敗をしてしまい、もう立ち直れないと思ったとき、この本を開いてみてください。どんなに暗い道でも、このあかりを見つければ、また歩きだせます。子どもからおとなまで、優しく導いてくれる1冊です。
(光森優子 編集者・ライター)
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