時計を見たら10時半、ボーッと考え事をして再び時計を見ると、3分しか経っていなかった……そんな経験、みなさんにはありませんか。とくに学校においては、このような経験が広く共有されていることでしょう。私の周りにいる大学生も「ある、ある!」と言っています。
本来、学びたいという気持ちは「人間が生まれもった欲求」のはずです。しかし、いつしかそのような気持ちは消え去り、学ぶことに対してマイナスのイメージをもつようになった人が多いのではないでしょうか。学校現場において、このような現象は永遠の課題ともなっており、いまだに解決方法は見出されていません。「学習への動機づけ」に関しては戦後とくに盛んに言われるようになりましたが、当時発表された論文を読んでも21世紀の現状とさほどズレがありません。つまり教育現場は、80年にわたって同じ問題を抱えたままだということです。そろそろ異なった視点からの解決方法を考えなければなりません。
「挫折ポイント」とは、「努力ができなくなったり、やる気が弱まったりする瞬間」を指します。つねに全力投球ができる人、やる気を出せる人は、実はいません。何かをあきらめたり、挫折する瞬間は誰にでもあるものです。本書ではそうした人間の本性を理解した上で、「やる気」とは何かを考え、議論し、実践につなげていくための方策が示されます。
具体的には、学習者の「挫折ポイント」がどこにあるのかを把握し、挫折しないような指導法や学習支援法を紹介しています。さらに、すでにあきらめている・挫折している学習者に対する対処法や、「やる気」を高めるヒントも紹介されています。
「挫折ポイント」という新しい視点から見ると、すでに実践されている「主体的、対話的な深い学び」の多くが実は表面的なものにとどまっていることが明確になり、それが「やる気」に大きな影響を与えることも分かってきます。学習者一人ひとりのあきらめや挫折の契機を理解し、指導や支援の仕方を変革することで教室は変わる――本書を通じてその実践に踏み出していただければ幸いです。(ふくだ・スティーブ・としひさ 文教大学教員)
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