「ねえ、理子ちゃん、三組の田中くんって、アンドロイドなんだって、知ってた?」
発端は、主人公の理子と同じ野瀬中学校に通う一年三組の美少年、田中瑠卯(通称ルー)が、SNSで突然、自分は本当はアンドロイドなのだと告白したこと。その発言に興味を持った小説家志望で惚れっぽい性格の鞠奈(まりな)に誘われて、人一倍正義感の強い理子は、ルーの発言の真偽と理由を解明するために行動します。
理子がまず相談したのは、文字や写真に息を吹きかけると内容の真偽を見抜くことができる「嘘吹き」の能力を持つ錯(さく)。ITスキルが高く、以前フェイクニュースやフェイク画像を作っては拡散して周囲を惑わせていた錯だからこそ、ルーの告白に対して何かヒントになる意見が聞けるかと期待したのです。しかし錯はたいして驚きもせず、アンドロイドのこれからの可能性を説くばかり。そうしているうちに、ルーが飼っているというパンダマウス(パンダ模様のネズミ)を見に行くという口実で、理子と鞠奈は、ルーの家に行くことに。そこでアンドロイドではないことのボロが出るかと細かく観察する理子でしたが、ルーは、「開発者」「開発期間」という言葉を並べ、自分がアンドロイドであるということの設定を頑なに崩しません。いったいなぜルーは、自分をアンドロイドだと言い張るのでしょうか。そして事態は思わぬ展開に‥‥‥。
「ネットと嘘」について考えさせられる『嘘吹きネットワーク』、インターネットのリアルなトラブルを通じて、情報社会を生き抜く指針を示した『嘘吹きパスワード』につづく第3弾のテーマは、チャットAIやコミュニケーションロボットという、人と交流ができる「機械」に、命や権利があるのかどうか。「人間とAIのちがいってなんなのか」「人間らしさとはなにか」「心とはなんなのか」……。
興味深いのは、理子と錯を中心とする登場人物の性格や考えかたの違い。ある事柄に向けて発せられるそれぞれの言葉には説得力があり、そこに納得しかけていると、他からまったく違う意見が投げられ、何度もハッとさせられるのです。そのたびに読者である自分自身がどう思うのかが問われるようで、読みながら思考をフル回転させられるようです。
シリーズは、今回の第3弾『嘘吹きアンドロイド』を単体で読んでも面白く読めますが、第1弾から読んできた読者には、この第3弾は、理子と錯の関係の変化や錯の心に起きている変化についてより面白く感じることでしょう。第3弾の後に、錯と理子の出会いの場面が描かれる第1弾の『嘘吹きネットワーク』にさかのぼって読んでみるのもおすすめです。
また、第3弾の本作で特筆したいのは、このシリーズのキーとなっている「嘘吹き」の能力をここぞという場面で使うのをやめる場面。動くべきか動かざるべきか、「嘘吹き」の力を使わずにある信念をもって行動へと移す理子の姿に注目ください。
物語の後半に進むにつれ明かされていく、ルーの切実な思い、その思いに触れて人と関わることが苦手なIT少年錯がどんどん心を見せていく様子、自信を失いかけていた自分の正義感への信頼を取り戻していく理子、ふわふわしていそうで実はよく人を見て思いやる気持ちにあふれている鞠奈の、それぞれに人間らしく熱い思いに、どんどん目が離せなくなる本作。個性的で繊細な登場人物たちが、すぐには答えの出ない難しい問いに対してとことん迫っていく姿に、何を感じるでしょうか。
AIやロボットの活用が一層進んでいく今とこれからに向けて、小学校高学年から中高生、大人の方におすすめしたい注目作です。
(秋山朋恵 絵本ナビ編集部)
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話題作『嘘吹きネットワーク』『嘘吹きパスワード』に続く待望の第3弾!
人一倍正義感の強い中学1年生の少女・理子は、小説家志望で惚れっぽい性格の幼馴染・鞠奈から、ある日突然衝撃的な発言を聞く。
同じ学年の容姿端麗・好感度抜群の田中瑠卯が、自分は高機能AIを搭載したアンドロイドだとSNSに投稿しているというのだ。理子は、なぜ瑠卯がそんなことを言い出したのか疑いを持ち、息を吹きかけることで物事の真偽を見ぬく「嘘吹き」という能力を持つ少年・錯に相談する……。
瑠卯は、なぜ自分がアンドロイドであるという設定を頑なに崩さないのか――。理子の正義感と鞠奈の好奇心、そして人と関わることが苦手な錯が瑠卯と対峙することで、徐々にその真相が明らかに……。
現在注目されているチャットA Iやコミュニケーションロボットという、人と交流ができる「機械」に、命や権利があるのかどうか。ロボット学を通して現代に必要な命の考え方を伝える物語。
【目次】
1:同級生アンドロイド
2:最弱パンダ
3:プログラムド・スマイル
4:サクセスフル・チャット
5:私インストール
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