めちゃくちゃになった部屋、壊されてしまったわたしたちのおうち、どうしたらいいのか、全然わからない。でもお兄ちゃんは自分のぼうしをわたしの頭にのせて言った。
「ぼうけんかになりたくない?」
こうして二人は「ぼうけん」の旅に出る。ウマより早く走り、どんな風や雨のなかでも歩き続け、外で寝るのだってこわくない。「ぼうけんか」はどんなものだって食べるし、ふねにだって乗る。魚みたいに泳ぐ時だってある。「ぼうけん」って、全然らくじゃない。でも、二人は励ましあいながら「ぼうけんかのまち」を目指すのです。
2019年にイランの作家によって描かれ、2021年ブラチスラバ世界絵本原画展金牌を受賞したこの絵本。主人公は、戦争によって親も家も奪われた幼い兄妹。火の手があがる街、歩き続ける人々の暗い表情、妹の涙。丁寧に描かれた絵を見れば、難民キャンプを目指す二人の旅路がいかに苦しくて果てしないものなのかが切実に伝わってきます。けれど、兄はこの困難な状況を「ぼうけん」だと言ってのけ、妹は兄の言葉を信じ、なんとか乗り切っていく。
今を生きる子どもたちにとっても決して他人事ではない、戦争という過酷な現実。恐怖や絶望に直面した時に、想像力や遊び心で立ち向かった小さな冒険家たちのことを思い出すことができたなら。この絵本が、きっと多くの人の心を励まし、希望を持ち続けることの大切さを教えてくれる存在になっていくのではないでしょうか。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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