ギザギザの青黒い葉の間から、
まばゆいくらゐ黄いろなトマトがのぞいてゐるのは
立派だった。だからネリが云った。
『にいさま、あのトマトどうしてあんなに光るんでせうね。』
ペムペルは唇に指をあててしばらく考えてから答へてゐた。
『黄金(きん)だよ。黄金だからあんなに光るんだ。』
『まあ。あれ、黄金なの。』ネリがすこしびっくりしたやうに云った。
『立派だねえ。』
『立派だわ。』
博物館の剥製の蜂雀が語った、兄妹のものがたり。
ある日、野原のむこうから風に乗ってきこえてきた音楽。
探しに出かけたペムペルとネリが見たのは、サーカスの行列だった。
ふたりはサーカスの中に入ってみたくなったのだが……。
賢治哲学の根幹に触れる重要作品。
「だからね、二人はほんたうにおもしろくくらしてゐたのだから、
それだけならばよかったんだ。……」
続きを読む