フェリシモ出版の「おはなしのたからばこ」シリーズ29巻は、50年近く前に執筆された今江祥智さんの童話に、「フンガくん」シリーズでおなじみ国松エリカさんが新たに絵を加えた『白ぶたピイ』。
生まれてはじめて歩けるようになったその日、ひとりでのおでかけに子ぶたのピイはおおよろこび!
ところが、でかけた先で出会った子犬にピイは笑われ、ばかにされてしまいます。
「ハダカであるいてらあ」
犬のようにふさふさの毛もなく、すらりとした体でもないことを恥ずかしいと思ったピイ。
美しい姿にあこがれるうち、それでもブタかと長老に叱られたピイは、仲間のもとを去ります。
そんななか、森をゆくピイが出会ったのは、悠々と池を泳ぐコイたちの美しい姿でした。
鮮やかなピンクと、つぶらな目でこちらを見つめるピイとが、明るくキュートな印象の表紙。
しかしうってかわってその物語は、どこかあわれでもの悲しい雰囲気です。
ハッピーエンドにも思えるのに、心からめでたしめでたしとは言えない、なんだか切ない結末。
そんな、物語と画風とのギャップこそがこの作品のみどころ。
決して心地の悪くない違和感が、なんとも不思議な味わいを生んでいます。
自分の生まれた姿を強く恥じるピイが、美しいものへのあこがれによって辿る不思議な運命。
ピイの物語が何を伝え、何を教えているのか、明確に示されてはいません。
「白ぶたピイ」の帯には、この絵本を読んだ子どもの感想が書かれています。
そこにはこうありました。
「ぼくのオススメです。ピイは、すこしかわいそうです」
あなたはどう感じるでしょうか?
(堀井拓馬 小説家)
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はずかしがりやで、「ハダカであるいてらあ」と子犬にはやされただけで、ひきこもってしまう子ぶたのピイ。
他愛ない言葉に傷ついても、自分のありたい姿を思い描いて行動します。それがたとえ的はずれであったとしても、
そうせざるをえない強い思いがピイにはありました。おっとりとした雰囲気の中に自分の居場所を見つける覚悟というものを
感じさせるお話の深さ。それを明るく生き生きとした風景の中に描き出した画家のはげまし。だれもの心の中にピイはいるのではないかしら。50年近くも前に書かれた物語なのに、現代の子どもたち、大人たちにこそ読んで感じてもらいたい切実が、ここにあります。
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