さて、みなさんは、「うつくしい」ということをどのようにお考えでしょうか。
冒頭で、そんな直球の言葉を投げかけられながらページをめくったこの絵本。
読んでいるうちに涙があふれて止まらなくなってしまいました。
一方では生きる力がわいてくる感覚もあり、感情は大きく揺さぶられるのです。
その内容とは?
その昔、ある村に「泥かぶら」と呼ばれ、みにくいから、きたないからと、ばかにされ、ひどい仕打ちを受けている女の子がいました。泥かぶらは、ますます人をうらみ、乱暴になるばかりでした。
ところがある日、泥かぶらのことを「おまえはよい子だ」とほめた旅の老人がいたのです。
思わず心にたまったものを泣きながらはき出す泥かぶらに、老人は言うのです。
「三つのことを守れば、きっとおまえさんもきれいになれる」
その日から泥かぶらは顔をあげ、にっこり笑い、例えどんな仕打ちを受けても人に親切に接するようになったのです。
これを実践していくことのなんと困難なことか。子どもにだってわかるはずです。
それでも毎日、何年も、何年も続ける泥かぶら。ところが更にとんでもないことが起こり…。
このお話『泥かぶら』は、新制作座によって1952年の初演以来、日本全国さらに海外において15,000回以上も演じられてきた舞台劇なのだそうです。その舞台劇を絵本化しようと、くすのきしげのりさんが原作の理解に時間をかけ、執筆に取り組まれて完成させたのが今作です。人間の本質には美しい真心があること、愛は愛を生むということ、そして、人間は自らの意思によってよりよく生きることができるのだという人間賛歌として読む者の心に強く訴えかけてくる作品となったのです。
更に泥をかぶっていた心を自らの力と意思で落としていく女の子の姿を、渾身の力で表現しているのは画家の伊藤秀男さん。怒鳴りちらす顔も、涙を流す顔も、ひたすら笑顔を続ける顔も、一時も目を離せなくなるほど惹きつけます。そしてどんどん美しくなっていく彼女の表情!
読者はこの物語をどんな気持ちで読むのでしょう。きっと何かが心に刺さっていくに違いありません。
これから力強く生きていかなくてはならない子どもたちに読んでもらいたい、本能的にそう感じてしまう絵本です。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
続きを読む