森の中にひとりぼっちで暮らす、いたずら狐のごん。ある朝、兵十が川で捕っていた魚やウナギが網にかかっているのを見て、ついいたずら心で逃がしてしまいます。後でごんは、そのウナギは兵十の病気の母親のために捕ったものだということを知ります。ごんは、なんとか償いができないかと行動を起こすのですが…。
言わずと知れた名作「ごんぎつね」。子どもの頃、教科書や学芸会でこのお話に触れ、なんて可哀そうなお話なんだと涙した記憶があります。ごんが可哀そうだと思ったのか、兵十に同情をしていたのか、そこのところは覚えていないけれど、子どもながらに切ない気持ちになったのだと思います。
切なさを恐れずに、大人になって改めて読んでみると、この物語からは、可哀そうなだけはでない、ごんの純粋な気持ちによる行動、その尊さが浮かび上がってくるのです。ちょっとしたいたずら心から兵十を悲しませることになってしまったと後悔するごん、何とか喜んでもらいたい一心で栗や松茸を運ぶごん、せっかく行った善意を神様に取られてつまんないやと思うごん。なんて人間くさく愛らしいのでしょう。まるで子どもそのものです。そんなごんの気持ちが兵十に届くのは、少し遅かった。それでも、その一瞬でも兵十とごんとの心が通じ合ったという事実に、不思議と心があたたまってくるのです。
柿本幸造さんが描くごんは、いたずら狐らしくすばっしこく、クリクリとした目には愛嬌があります。
そんなごんが、澄みきった空の素朴な村の風景の中を走り回る姿。その美しく魅力的な絵もまたそんな気持ちにさせてくれているのかもしれません。
子どもでも大人でも、その感性を読むたびに揺さぶってくる物語「ごんぎつね」。改めておすすめしたくなりました。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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