子どもは宿題やお片づけ、大人だったら仕事や家事、やらなければならない事って毎日どんどんたまる一方・・・。
そんな時、魔法を使ってパッと一瞬で片付けることが出来たらどんなに楽かしら?誰でも一度くらいそんな風に考えたことがあるはず。
けれどこの絵本はそんな私たちに優しく問いかけます。みんなが便利だと思ってる「魔法」。それって本当にいいものなのかしら?
魔法使いのメルリックは、とても優しい働き者。
彼のお仕事は、お城に住んでいる王様と王国の人たちのお仕事を助けることです。
メルリックが魔法でなんでもやってくれちゃうので、人びとは何もせずみんなのんびり平和に暮らしていました。
ところが、そんな日々はそう長くは続かないもの。
だって、メルリックはみんなのために魔法を使いすぎて、使える魔法がなくなってしまったのだからさあ大変。
魔法の力に頼りきっていた王様や王国の人たちは、長い間自分の手足を使って仕事をしていないので、
あちらからもこちらからもマヌケな悲鳴があがり、王国中、みんな頭を抱えて大パニック。そこでメルリックは・・・?
魔法使いが魔法を使わず、自分の洋服と必死に格闘しながら服を着るメルリックの様子には思わず笑ってしまいます。
この絵本、実は今から40年以上も昔になる1970年に作られた物語なのです。
代表作「ぞうのエルマー」シリーズなどで知られる人気絵本作家のデビッド・マッキーさんが、全ての絵を自ら描きおろし新刊絵本として蘇らせました。その背景には、便利な現代に生きる私たち一人一人に、この絵本を通してしっかりと向き合って考えて欲しいという決意が感じられます。絵本のあとがきで、翻訳者のなかがわちひろさんは、マッキーさんのいう「魔法」とは何だろうと考えた時に震災直後のこともあって真っ先に「電力」「原子力」を思い浮かべたと書かれています。
絵本の中で抽象的に表現されているこの「魔法」は、読み手によって何通りも姿を変えるようです。
物事を自分の目で確かめ、自分の考えを持ち、自分の手足を使って生活する大変さ有難さに感謝する、
そんなあたりまえの小さなことを意識することから私たちの未来が変わっていくような気がします。
読み終わった後、誰もがきっと心の中がざわざわしてくるのではないでしょうか。
大人にもこれから未来の扉を開ける子どもたちにも是非読んで何かを感じてほしいです。
テーマは深刻ですが、そこはもちろんマッキーさんの絵本。決して重たくならず最後には愉快な結末が用意されています。
(絵本ナビ編集部)
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