綿畑で働く、ちいさな女の子。
「すごーく あつかったわ、もう ものすごーく あつかった」
「わたしたちは みんなと いっしょに わたを つんで つんで つんで つんで いったの」
終わりが遠い、はてしない労働。
女の子は、へびや、ちょうちょ、ノスリ、ウズラに自分を重ねあわせ
「ああ 神さま、わたし ノスリだったら よかった」と言います。
(ノスリは主に北米に生息しているアカオノスリという鳥を指します)
ミシシッピ州で幼い頃から働いてきたグラディス・ヘントン(故人)の体験談が元で、児童発達支援グループのプロジェクトのなかで語られたお話。アメリカでは1968年に出版されました。
グラディス・ヘントンは大多数のアフリカ系アメリカ人が生きていく上での選択肢がほとんどなかったときに子ども時代を過ごしました。
でもこれはかわいそうな絵本ではありません。
約束の労働を終え、おとうさんからもらったぺろぺろキャンディーを、兄さんとなめる女の子の顔からは誇らしさを感じるし、夜、家族3人で家路につくシーンからは、満ち足りた美を感じます。
赤茶色と焦げ茶色が美しい、この絵本は、全体がまるでひとつの詩のよう。
繰り返されるリズムは、歴史のなかでなんどもなんども唱えられ、歌われてきた歌のような、素直な力を私たちに伝えてくれます。
わが家で5歳の娘と一緒に読んでみました。「ああ 神さま、わたし 〜だったら よかった」と読むたびに、娘は「どうして?」とたずねました。
「どうしてだろうね」と答えながら、働く少女のことを一緒に考えてみようとしました。
今でも世界中で、学校に行くという選択はできず、家族とともに幼い頃から働きつづける子どもたちは大勢います。
絵本のなか、少女のおとうさんの手は大きくて、思わず胸をしめつけられます。
少女の手の小ささ、そして、過酷な日常のなかの、おとうさんの手のぬくもりを感じるからかもしれません。
(大和田佳世 絵本ナビライター)
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