小さなコウモリのぼうやチーロは、初めてひとりで湖まで行って帰ってくることになりました。でも、不安でいっぱい。夜の闇の中を、どうやって飛べばいいというのでしょう。
するとお母さんコウモリは、目を使わないで「感覚」を上手に使うことを教えてくれます。「感覚というのは、あなたが世界にむかってうたう歌のこと。そして世界がかえしてくれる歌のこと。あなたがうたえば、世界はかならずこたえてくれる。するとね、見えてくるの」
その言葉を胸に、チーロは外の世界にはばたきます。小さな声で歌をうたいながら……。
コウモリは、目で世界を見るのではなく、口から超音波を出して(歌をうたって)、それが周囲のものにあたって跳ね返ってくる音を聞いて、物や獲物の位置を知ることができるのだそうです。
絵本のカバーは、暗闇を飛ぶ小さくてあどけないチーロ。真っ黒なカバーに思えますが、よく見ると、何かが浮かび上がってきそうな予感のある、そんなもどかしい黒です。
そう、チーロはまさにそんな闇に、たったひとりで飛び出すのです。応援せずにはいられません。
闇の中、チーロが歌うことによって浮かび上がってくるのはどんな景色でしょう? 大きな樫の木、空を飛ぶわたり鳥の群れ、小さな虫たちのとぶ音……。雄大で、夜も決して止まることのない生き物たちの営みが繰り広げられます。よく見ると、ページの真っ黒に見える部分にも絵が。そんな発見にも胸が躍ります。
お母さんコウモリからチーロへの、愛情いっぱいの言葉を読んだとき、ハッと胸をうたれました。
新しいことを始めるとき、未知の世界へ一歩踏み出す時、私たちもチーロと同じように、先の見えない闇におびえ、不安になります。
でも、大丈夫。
あなたのうたう歌声にかえってくる歌が、きっとある。歌声が共鳴して、もっと大きな歌声になっていくかもしれません。
新しい挑戦にのぞむ背中を優しく押してくれる、勇気と温かさに満ちた絵本です。
(光森優子 編集者・ライター)
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