おとなにはおとなゆえの果たすべき責任があります。
そのひとつは、おとなとして生きる上で正しく判断することでしょう。
そして、そのことを子供たちに伝え、教えること。
アメリカの作家ラリー・バークダルが書いた『ナゲキバト』という物語を読んで、そんなことを思いました。
この物語は1996年にアメリカで自費出版の形で刊行され、大きな話題となった作品です。
日本でもすぐさま翻訳され、2006年には「新装改訂版」として刊行されています。
タイトルの「ナゲキバト」は鳩の仲間です。
物語の主人公であるハニバルという少年が散弾銃で誤ってナゲキバトの母鳥を殺してしまうエピソードから採られたタイトルです。
この母鳥のそばには二羽の雛がいました。
ハニバルは9歳の時に事故で両親を亡くして、祖父に育てられていますが、この時祖父は父鳥だけでは二羽を育てられないからということで、ハニバル少年に二羽のうちの一羽を殺すように言います。
少年は涙ながらに一羽の雛を殺します。
このエピソードが、後半大きな物語となっていきます。
それは祖父が語ってくれた物語、ある兄弟と父親との話です。
優秀な兄と出来の悪い弟。
出来が悪くても兄はいつも弟をたすけるのですが、ついに弟の不始末により兄弟二人ともが火事に巻き込まれます。
決死の覚悟で火の中に飛び込んだ父親が助けられるのは、どちらか一人。
優秀な兄か、出来の悪い弟か。
これは児童文学に入る物語でしょうが、実はここで問われているのは、おとなである私たちです。
おとなが正しい判断をしないと、子供たちは道を間違える。
祖父が話した物語で、父親が助けたのは出来の悪い弟でした。
何故なら、生きのびて生きるという意味を学ぶ必要があったのは、弟の方だったから。
この物語には、さまざまな教訓、教えが散りばめられています。
そのことを学ぶのは子供ですが、おとなにも問いかけられた物語であるということを忘れてはなりません。