人間がこの世で受ける苦しみを四苦八苦というが、その中に怨憎会苦(おんぞうえく)がある。
怨み憎む人に会うという苦しみだ。仲の良い母子関係というのもあるが、運悪く折り合いの悪い親子もある。
佐野洋子さんの訃報を聞いて、また自分が母を亡くした悲しみが今まだ残る中、読んでみたいと思ったのがこの本である。
自分の親を「お母さん」ではなく『シズコさん』と書く感性は佐野さんならではのものだと思う。
最初から泣けたのは、佐野さんの母子関係と自分自身の母子関係がある意味重なるところがあったからである。
大人になってから思ったのは、仲の悪い母娘というものが自分だけでなくあるということだった。
女同士はわかりあえれば豊かな関係が築けるが、相性が悪ければお互いの悪い所を容赦なく攻撃して痛いところをつつき合うという不毛な関係に陥りかねない。それが親子であれば尚更であると思う。
「家族とは、非情な集団である。他人を家族のように知りすぎたら、友人も知人も消滅するだろう」と佐野さんは書いている。
「母を嫌いだった」という表現も何度も出てきた。
嫌いであっても、嫌いになりきれないのが、母子関係でもあるように思う。
私の母は佐野さんのお母様ほど強烈な個性は持ち合わせていなかったが、一時期は互いに非難し続けたこともあった。私が母と和解できたのは、父が亡くなった五年ほど前からで、母が物盗られ妄想がでてきたあたりだった。
それまでの関係を変えていかなくてはどうしようもならなくなっていたからで、そんなことも佐野さんと重なるのである。
呆けも親の死もある意味自分の今までの業を直していくものなのかもしれないとも思った。
ここまで赤裸々に母への思いを語った佐野さんが、不器用でとても愛すべき人のように感じられた。
おそらくこの作品は書かずにはいられなかったのだと思う。そんなことをひしひしと感じた。
母娘関係、母子関係に悩む人がいたらお勧めしたい本だと思う。