町の商人が田舎の山に、クリスマスツリーにするためのモミの木を買いに来ます。物語のはじめから終わりまで、商人はりっぱに育ったモミの木を商品としか見ていないが、山を所有する主人は、モミの木を息子のように思い、モミの木が山に存在することの意味をかみしめ、語りかけています。モミの木であって、クリスマスツリーではない。山に木があるからこそ、他の生き物たちも生きている・・・と、突然木を買いにきた商人とのやりとりで、木についてひとつひとつ考えては、ひとつひとつに自分で答えを出し、最後には、木を売る道ではなく、香りのよい、美しいモミの木を誰かに見てもらいたくなったと、さっそく友だちにモミの木を絵に描いて送る・・・ 子ども、犬、馬、山の景色・・・絵からも、日常の風景が、とても美しく、静かで、しっかり山で生活している感じが読み取れ、山の主人が、普段からどれほど木や山の生活を大切にし、愛しているかが、味わい深く伝わります。ちょっと考えれば、木を切り倒して、丸裸にされた山が、どんなに無惨かわかるのに、どういう立場で考えるかで、守られるものも、得られるものも、全く変わってしまう。もし私が、この山の主人の友人で、モミに木の絵の手紙をもらったとしたら、ありったけの耳をすまして、鳥の声を聴き、自分も自然の一部として生かされていることに、感謝できる人間でありたいと思った一冊でした。