保育園に通い始めてから半年以上たって、娘が自宅で「おまけのおまけのきしゃぽっぽ〜」と歌い始めるようになった。私の知らない歌。どうやら保育園で覚えてきた様子。でも普通の歌ではなく、園児同士が同じおもちゃのとりあいになった場合に、間を取り持つために先生が歌うらしい。歌の最後「おまけのおまけのきしゃぽっぽ!」まで歌うと、次の子におもちゃを貸さないといけないそう。
半年以上たってから、初めて知ったこと。
一人っ子で自宅ではすべてが自分のもの。自分が夢中になっているものを、うばいに来る相手はいない。娘は納得いかなかったのだろう。
なぜ保育園では、おもちゃを自分だけで使えないのか。
なぜ「おまけのおまけのきしゃぽっぽ」で、次の子に貸さなければいけないのか。先生や、自分以外の子どもは「おまけのおまけのきしゃぽっぽ」の使い方をを知っている。自分は知らない。なんだか疎外感。
黙っていた半年間、娘は自分の中で葛藤していたのだと思う。
いやだ。腹が立つ。おもしろくない。
…でも、ちょっと気になる。
連絡帳に、「年下の子におもちゃをとられて怒りましたが、『しょうがないなあ』と言って気持ちをすぐに切り替えられるようになりました。」と書かれて2週間後、自宅で「おまけのおまけのきしゃぽっぽ」と歌い始めるようになった。
「その歌、なあに?」と私が聞くと、娘はにやっと笑って「『おまけのおまけのきしゃっぽっぽ』でね、貸してあげるの!」と。
この子は一歩踏み出したんだと気づいた。
そんな時期に読んだ『たんぽぽはたんぽぽ』。
今の私の心にすっと入ってきた。
私には、ある集団内でルールとされているものに、新参者が参加していく話に思えた。
「たろうはたろう」…『きみの得意技を見せてよ!』
に、恥ずかしがりながらも応じた太郎くん。
腹立ちながらも、おもちゃをお友達に貸した娘が重なる。
さらに「すずめはすずめ」とリレーした。
今では娘も、新しいお友達の前で「おまけのおまけのきしゃぽっぽ!」と歌い、得意げにおもちゃを貸すのだろう。
抵抗を乗り越え、集団のやりかたに従ってみる。
それは仲間になりたいという、気持ちの表れ。
家庭以外で、娘が自ら作った、自分の居場所。
この春、娘は保育園を出て、幼稚園に行く。
「たろうはたろう」「おまけのおまけのきしゃぽっぽ」
幼稚園では、どんなルールを覚えてくるのだろう。
私は思いを巡らせるだけ。
娘には娘の世界が広がっている。