でんでんむしを扱った3編の作品を含め、5つの作品集です。
本のタイトルにもあるように新美さんがでんでんむしを通して、生きるものへの応援と小さな生き物に対しての思いやりが伝わってきて、とても心温まる作品集です。
ゆっくりしか進めないでんでんむし。
「でんでんむしのかなしみ」では、生きるもの皆が悲しみを背負って生きているのだと語られます。
背中には悲しみしか入っていないようで少し気がかりにはなりましたが、新美さんはそんなことを言っているのではありません。
飛んだり跳ねたりはできないでんでんむし。
ゆっくりだけれども着実に歩いていくでんでんむしだから、そのような言い方になったのでしょう。
みんなが同じだと思ったら気が楽になったでんでんむし。
素晴らしいと思います。
「でんでんむし」では、小さなでんでんむしがお母さんに物を見ることを教わります。
さりげない話の中で、小さなでんでんむしの好奇心が膨らんでいく様が感じられました。
「一年詩集の序」では、新美さんは文語体の詩の中にでんでんむしに対する思いを膨らませました。
他の2編ほどとっつきやすくはないけれど、とても味わいと含蓄のある詩だと思います。
言葉づかい、ひらがな漢字の使い方、三者三様です。
私が好きなのは、「木の祭り」。
小さな木が花を咲かせました。
誰にも褒めてもらえないと嘆いていたら、小さなシジミチョウがそれを見つけました。
シジミチョウと蛍で小さな木の花を愛でるお祭りが始まります。
見向きもされない小さな木。
いじけていないで。
誰かが見てくれています。
そう応援したくなりました。
それぞれに温かみのあるお話でした。