日本語版2009年刊行。
病気の母親にしぼりたてのミルクを飲ませるため、町に出かけた兄妹。お金を持っていないが、どうにかして牛乳を手に入れようとする話。
悪者が出てきて、すったもんだの挙句、正しい子どもたちが勝つ、というお話。悪い人はどこまでも悪く、ずるく、汚くてわかりやすい話。
周囲のその他大勢の大人たちの付和雷同ぶりも見もの。社会の嫌な部分をよく観察してうまいこと表現している。
話がずいぶん大げさで、くどい印象を持った。
コテコテの改善懲悪モノだと、いささか鼻白んでしまうのは、私の偏屈な性格のせいだった。
巻末の翻訳者による解説を読み、しつように悪い人をやっつける描写に力が入っている理由がわかった。
この絵本の原作となったオペラは、第二次世界大戦中に台本が書かれ、作曲され、チェコのユダヤ人の孤児院で初演。その後、チェコ北部のナチスの強制収容所で子どもたちが55回にわたって上演したという。
アウシュビッツよりは多少ましだったらしいテレジンの強制収容所では、ガス室はなく、芸術活動も行われていたとはいえ、無理に働かされて病気になって死んでいった人がたくさんあったという。
(収容された子ども15000人中、生き残ったのは132人)
そんな状況の中、悪い人をやっつけて、正しい人が幸せになる話はどれほどその場の人の心を慰め、支えとなっただろうか。
明日、生きているかどうかわからない状況で、子ども達がどんな気持ちでこの話を上演していたのだろうか。
その話を絵本という形で、現代の私たちが知ることができるのは貴重だと思う。