2016年第62回の読書感想文(中学生向き)課題図書に選ばれた1冊です。
タイトルにある“ハーレム”という言葉を聞いて、一般的な日本人がまず思い浮かべるのは、どんなイメージでしょうか?
わたしは中高生くらいの子どもたちだったら、いわゆる「ハーレム状態(男の人がたくさんの女の人を侍らせているような状態)」を想像するのではなかなぁと、思います。
でも、この作品内で使っている“ハーレム”はニューヨーク市マンハッタン区北部の地名で、主にアフリカ移民(黒人)の多い住宅街を指しています。
この物語の主人公(実在の人物)「ルイス・ミショー」は、黒人です。
著者はルイス・ミショーの実の親族です。(著者から見て、ルイス・ミショーは大叔父=自分の親の祖父に当たります。)
ルイスは、幼いころから白人社会からの得も言われぬ差別や侮蔑に傷つき、反社会的な行動ばかりとる、古い言い方をすると非行に走ったままやくざまがいの生活をしているような荒んだ子どもでした。
わたしはタイトルから、とても本好きな人が、受け入れられないような土地で頑張って本屋を確立した話。と思って読み始めたので、こんな人が本当に「本屋」を始めるのかひどく疑いながら読みました。
なので、幼少期から30代くらいまでのルイス・ミショーの半生部分については、全く面白いと感じるところはなく、実はなんでこんな本が課題図書に?とまで思いながら読んでいました。
ところがどっこい!40代以降のルイスはすごかったです。
たぶん、本はもともと好きだったのだろうし、家族や周りの人たちからの証言通り、頭の回転も非常に早かったのでしょうね。
彼自身の信念が強かったこともあると思いますが、彼が興した『ナショナル・メモリアル・アフリカン・ブックストアー』には、当時のニューヨークで、専門家が買い付けに来るほどたくさんの黒人や黒人社会に関係する本や黒人作家が書いた作品が置いてあり、
1940年から店を閉めるまでの間の1975年、最後に在庫を調べたとき22万5千冊もの蔵書だったそうです。
また、当時アメリカで名をはせていた黒人の指導者のひとり=マルコムXは、ルイスを父のように慕って頻繁にこの店に訪れていたそうです。
また、ルイスの実の兄「ライトフット・ソロモン・ミショー」は、黒人宗教指導者で長老とまで呼ばれた人でした。ルイスは若い頃兄と一緒に活動していた時期もあり、、このライトフットと親交のあったキング牧師とも知り合いだったようです。
(これらの人たちの名前について「?・?・?」と、思う人は辞書や歴史の本で調べてください)
けれども、わたしはこのような有名人たちとの逸話の部分よりも、
ルイスがハーレムで店を構えていたからこそ出会った黒人の子どもたちたちが、ルイスやこの本屋に出会ったことで、「本という知識」を得て、自分の希望を見出し、前を向いて生きていく力になった話のほうが心ひかれました。
例えば《スヌーズ》の話!
ルイスが彼に渡した1冊の詩集『夢の番人』の詩は、未来を見出せない10代の子どもたちや、何かどうしようもないことが起きて人生に絶望した若い人たちの活力となる言葉があふれていました。
中高生の時にこういう本に出会えることはすごいと思います。
ちょっとでも興味のある人はぜひ、手に取って読んでください。