閉鎖されると決まった動物園で、ゴリラの武蔵とチンパンジーのジャーニーが夜な夜な動物たちの行く末を案じてあれこれ会話する物語。
動物の気持ちを代弁して物語を作っているような臨場感と、現実世界の経営上の問題や環境・動物愛護問題などを髣髴とさせる会話文。現代人の感覚にぴたりとはまる表現力に脱帽する。
動物たちはそれぞれなんとなしに登場するが、たとえばトラの夫婦が受け入れ先が分かれてばらばらになるとか、30匹もいるアライグマの受け入れ先がなかなか決まらないとか、動物を通していろんな社会問題、個人的な人事問題などを連想してしまう。
くすぐりもぽんぽん入るが、笑いながらも、考えさせられてしまう物語だ。
読み手それぞれの立場や関心事により、感じるものが全然違うと思う。私は無理やり芸をさせられるチンパンジーが心に残った。自分の意思とは関係なしに、いつのまにか不自然さを強要され、本来の姿を失ってしまった様子が哀しい。