表紙からいきなりの重厚感に圧倒されました。
人物達の表情の暗さがとても気になりつつ、ページを開きました。
この本の主人公は、1656年に建てられ、長い年月が経つうちにいつの間にか人の住まない廃屋になってしまっていた古い家。
それが、1900年に再び人の住む家に生まれ変わり、そこから1世紀にもわたるこの家の歴史が物語られます。
定点カメラによる撮影のように同じ構図で描かれた家。
年月が経つにつれ、家の様子も、そこでの人々の暮らしぶりも変わっていきます。
20世紀。それは、2度の世界的規模の戦争があった世紀でもあります。
この物語の初頭、森の中にたたずむこの家の周りはまだ中世の雰囲気すら残した牧歌的な生活ぶり。でも、世の中は戦争への道をたどっていることがうっすらとうかがえるのです。
戦場から離れた山深いこの場所。そんな場所に住む人々の日々の生活にも、いやおうなく戦争は影を落とすのですね。
そして2度の戦争。具体的な描写はありませんが、人々の悲しみがひしひしとつたわってきます。
表紙の絵は、この部分から取られたものでした。
戦後の復興、人々の暮らしぶりの激変。古き伝統を軽んじる風潮。でも、それが時代の変化。これまでもさまざまな変化を受け入れてきたこの家は、今また、「現代風」への変化を受け入れることになるのです。
この本を読み終えたとき、さまざまな感情が駆け巡りました。
私は、ラストが明るいものとは受け取れませんでした。
現代風な暮らし方、それはまさに今を生きる私たちの暮らしなのですが、それはあまりにも軽薄なのではないか・・・と思わせられて。
でもこの家は、それでさえも甘んじて受け止めて、自らの姿を変えていくのですよね・・・。
この本と同じく家という形をとって現代社会への警鐘を鳴らした名作「ちいさなおうち」との類似点・相違点を考えさせられました。
何度も読み返したい名作です。でも、大人向きでしょうね。
手元に置いておきたい1冊をまた見つけました。