ストーリーは至ってふつうなんですが、ふつうをものすごく素敵な作品にしてしまう、そこに作者のおおきな魅力を感じます。また、何もかもが色鮮やかなデジタルで表現されており、何度も読み返してしまいます。読後感は箇条書き的な感覚でしたので、箇条書きで表現させて頂きます。
(絵について)
・スーラの点描画を思わせるようなヴィヴィッドな絵がとても素敵です。
・ウォーリーを探せのような宝探し感のある風景は、わくわくに溢れていて心躍るものがあります。
・一見場面を切り取っただけで動きがないように見えますが、よく見るといろいろなものが流れをもってゆったりとくすくす動いているのがわかります。
(バムとケロについて)
・バムとケロは一緒に住んでいるのにほどよい距離感があるのが心地よいです。
・マイペースで包容力のあるバムと、これまたマイペースでお茶目なケロのやりとりは、親子でも兄弟でも同士のものでもなく、ただ一緒にいて楽しいだけの関係で、入り混じることがないように感じます。とってもきれいな風景画のような関係とでもいえましょうか。
(文章について)
・文章はひとつひとつ簡潔で、想像力を掻き立てます。
・句読点がなく空間でことばが区切られているので、快いリズム感を感じます。
この作品は、素晴らしい芸術作品に仕上がっていると感じます。その一方で、こどもたちの心をくすぐるような、『山盛りのドーナツ』や『薄暗い屋根裏部屋』などのコンテンツもあって親しみやすいところもあります。この微妙なバランスを実にきれいに成功させている陰には、作者の強い想いとかけた時間があるのだと思います。素直に『ありがとう』の言葉が出てきます。
この味わい深い名作は本当にいろいろな楽しみ方ができるので、おとなからこどもまですべての方にお勧めです。