『引き出しの中の家」とは、また違った朽木祥さんの青春小説。テニス三昧の日々。どこにでもあるような、高校生活が一転、重いものに変わってしまう。自分をテニス部に誘ってくれ、自分の才能を見出してくれた大切な友達。そんな彼が、自分を助けようとし、事故に遭ってしまう。それが原因で、歩けなくなってしまった友達。取り返しがつかない!この小説で心に染みた言葉。瀬戸内海の島に住む認知症の祖父。じいさんは言う。「神さんはな、それほどきびしいもんじゃない。おまえのことなんか、とっくに赦してるさ。」「人間は、自分で自分が赦せなくて苦しむんだ。神さんが赦してくれても、人が赦してくれても、な」「大事なのは、これだ」‘自恃‘
ガツンときた。こんな青春もあるんだ。でもこれは、きっと若者にだけに、向けたものではない。生きている人達、みんなへの作者からのメッセージだと思う。自分がかわいそうになったり、自分が嫌になって、赦せなくなる。周りを恨んだり。そんな弱さは誰もが、持っている。本当にギリギリの状況に追い込まれた時。自分を頼みとすることができるか、そこなんだとじいさんは言う。
大きな試練を乗り越えたからこそ、手に入れることのできた勝利。実力ではない、粘り勝ち。そして事故に遭った友達も新たな道に一歩を踏み出した。
私たちの日々は、彼らのような大きなドラマは、ないかもしれない。だけども、日々の生活は、彼らと同じなのではないか。
この小説を読んで、明日から、じいさんのいうように、‘自恃‘を大切に生きていこう!と思った。